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「美嘉、ちょっといつものお茶屋さんに行ってくるから、しばらく好きなとこ見ててね。」
デパートを出て、近くにある商店街へ移動。そこにはママの行きつけのお茶屋さんがあって、ママはいつもそこで茶葉を買ってるの。
私はコクリと頷いた。
「おっけー、テキトーにブラブラしとくね。」
っていっても、この商店街あんまり面白いものないけど。一本裏に入れば、なんかよく分かんないスナックとか、寂れた家とかが並んでる感じ。
ママと別れたあと、私はあてもなく歩いてみた。入りたい店?そんなとこないよ。唯一の「おっ」と思ったのは、揚げたてのコロッケを並べてる小さなお肉屋さんくらい。油の匂いにつられて衝動的にコロッケを買いそうになった。あぶない。
一本裏手に入ってみると、もうなんにも無し。夜にならないと明かりが灯らない昭和を引きずったスナックの看板がいくつか出てて、私はヒールをコツコツ鳴らしながら、その寂れた雰囲気を観察していた。
「おねーさんかわいいですね!」
知らない男の人に、突然声をかけられた。
声のした方を振り返ると、スーツ姿の爽やかな男性がニッコリ笑って立ってる。
「えと…」
私のことであってます…?これで違ったらただの恥ずかしいヤツだから慎重に反応。男性はコクリと頷いた。
「そうそう、君!いくつ?」
「え?18歳ですけど…」
聞かれるがまま答える私。
すると、男性は目を輝かせた。
「18歳!いいね!僕、芸能プロダクションでスカウトしてます!モデルとか興味ない?」
モデル?いや、この流れは怪しすぎるでしょ。
「いや、あんまり…」
「ほんと?読モみたいなやつで、数枚撮って1日5万とかだよ?もしかして怪しんでる?大丈夫!そういうんじゃないから!今は移籍しちゃったけど、うちの事務所からこういう子たちも出てるし、」
そう言って、男性はバインダーで何枚か女性タレントの写真を見せてくれた。今、人気な人ばっかり。いやでも…
「私、そういうのはちょっと…」
と言いつつ、ジリジリその場から動こうとするけど、男性も一緒にジリジリ。
「怪しんでるよね(笑)みんなこんな感じだよ?テレビとかでもタレントさんが『歩いてたらスカウトされました』とかよく言ってるじゃん?それって、こーゆーチャンスを逃さないってことなんだけど、どうかな、」
確かにテレビでそういうこと言ってるタレントさん、いる、ような。
それでも拭えない不信感。不信感があるのに、なんか相手の勢いに押されてズルズルお話聞いちゃってるんだよね。
「いや、うーん、」
私が苦笑いすると、男性がバインダーをさらにめくった。
「とりあえず、ちょっと話聞くだけでもしてみない?18歳ならもう親御さんの許可とかいらないし、話聞くだけでも今なら講習料払うよ?」
講習料??
私は首を傾げた。
「それっていくらですか?」
「3万だよ。」
話聞くだけで3万!?超割がいい!
今日買ったバッグの代金チャラにできる!
いやでもなぁ…
「うーん、」
「とりあえず、ここに名前書いてくれる?講習申込書。講習受けないならこれ破棄するし、」
男性は、私にペンを握らせた。
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