3人が本棚に入れています
本棚に追加
1話
あたしはいつか歌手になりたいと夢を見た。
けれどそれは遠い夢のまた夢と成長して気づき諦めた。あたしに歌を教えてくれたお姉さんも既にいない。どうしたらと思う日々が続いたのだった。
あたしには2人の弟がいる。上がエーリク、下がカーティスといった。あたしが一番上で19歳、エーリクは15歳、カーティスが13歳となる。両親やお祖母ちゃんとの6人家族だが。毎日が騒がしい。何せ、エーリクとカーティスは大体が喋っているか喧嘩をしている。今日もそうだった。
「……カティ。お前。俺のここに置いといたチーズ。食っただろ?」
「さあ。知らないよ。リク兄さんの見間違いだろ」
「嘘つけ!確かにここにあったんだ!」
「なっ。僕のせいにする気かよ!」
「勝手に食べるといったら。お前しかいないだろーが!!」
あたしは頭を抱えた。テーブルの上にあったチーズは確かに末弟のカーティスが食べてしまっている。「どうせ。バレやしないよ」とか言って。コイツはと思いながらため息をついた。
「リクにカティ。いい加減にしなさい!!」
「「……ね、姉ちゃん」」
「そもそも。勝手にチーズを食べたのはカティの方でしょ。ちゃんと謝りなさい!」
エーリクとカーティスは気まずそうにする。それでも2人は仕方ないと眉を下げた。
「……ごめん。僕、お腹が減っていてさ。我慢できなくて食べちまったよ」
「……いや。まあ。いいんだ。そういう理由なら仕方ないだろ」
「さ。2人とも。お隣のお婆ちゃんから卵をもらってオムレツを作ったの。食べなさいな」
あたしはそう言って台所に行く。作っておいたオムレツはお皿にそれぞれ盛り付けてある。その内の2つを持ってテーブルに置いた。
「あ。姉ちゃん特製のチーズ入りオムレツだ。美味いんだよな」
「本当だ。カティは昔から好きだったな」
「リク兄さんもだろ。姉ちゃんのオムレツは別格だからな」
2人は笑顔満面になりながら椅子に座る。あたしが前に置くとカトラリーを持って食べ始めた。
「……うーん。やっぱりトロットロの卵もとろけるチーズも美味いな。一気に食べるのは勿体ない!」
「大げさねえ。まあ。たまにしか食べられないし。よーく味わいながらにしてね」
「うん!」
カーティスはそう言いながらも食べる手は止めない。エーリクも同様だ。しばらくあたしは両親やお祖母ちゃんと苦笑いし合うのだった。
翌日も家の庭にある畑に植えたナスやトーマの実、ピーマなどを収穫しに行く。我が家では合わせて10種類くらいの野菜を育てていた。また、3種類くらいは果物も植えている。桃にハッサク、レモンがそうだ。
なので毎日忙しく過ごしている。エーリクやカーティスも手伝ってくれていた。あたしはカゴを片手に鋏も手に持ちながら畑を歩き回った。
ナスのヘタの上の茎を鋏でチョキンと切ってはカゴに入れていく。近くには父さんと母さんもいる。エーリクやカーティスも。5人がかりで収穫をした。
「……姉ちゃん。トーマやピーマが沢山採れたよ」
「あ。リク。本当ね。あたしはナスが沢山採れたわ」
「うん。俺もあと少ししたら終わるから。カティも後で桃とハッサクをもぎに行くってさ」
「そうなの。じゃあ、早めに終わらせないとね」
「そんなに慌てなくてもいいんじゃね?」
「まあ。そうなんだけどね」
カーティスと2人で話していたら。
父さんや母さんがこちらにやってきた。あたしは珍しい光景に驚いてしまう。2人が一緒にやってくるのは滅多にないからだ。
「……どうしたの。2人とも」
「いや。ソニア。カティと何を話していたんだ?」
「何をって。作物について話してたんだけど」
「そうか。ならいいんだが」
「父さん?」
父さんは苦笑いしながらもそれ以上は言わない。あたしは変に思いながらも収穫作業に戻る。カーティスも同じくだ。こうして1日は過ぎていった。
翌日も畑仕事などに追われていたが。夕方近くになって家に戻る。不意に母さんが話しかけてきた。
「……ちょっといいかい。ソニア」
「……どうかしたの?」
「いや。ちょっとね。あんた、後2月もしたら。秋祭りがあるだろう。その時に今年の歌姫は誰にするかを村長が決めるんだけどさ。ソニアに任せたいって言っているんだよ」
あたしはあまりの事に頭が真っ白になる。秋祭りの歌姫。それはこの村にとっては大事な役回りだ。歌姫の良し悪しにより来年の豊作になるか不作になるかが決まる。
ちなみに秋祭りの終盤に歌姫が舞と共に歌を村の守り神に捧げるのだが。それが成功すれば、豊作になり失敗すれば不作になるらしい。何とも理不尽なとも言えるか。
あたしは母さんの前ではあったけど。小さくため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!