科挙

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──そして、一次、二次、と、科挙の試験は、進んで行った。 夢龍は、無事に通過して、最終科目、王による、口頭質疑を迎えるに至っていた。 無論、様々な、師と呼ばれる、文士についた。書物も、相当数紐解いた。 努力は、怠っていない。だが、この世には、人運という、巡り合わせというものが、ある。 どれ程、学力をつけようと、いわゆる、上の引き、が、なければ上手く運ばないのが、宮仕えというもの。 大叔父のツテを頼って、夢龍は、動いた。 宮殿の奥深く、王の座所内を取り仕切る向侍(ないじ)──、つまり、宦官に取り入ったのだ。 従四位、五位と、そう位は高くない内侍職ではあるが、誰よりも、王の側に控え、内側を、取り仕切っている。 科挙における、最終結果、つまり、合否の判断基準に助言を求められる事もあると、噂が流れるほど、その影の力は絶大なものだった。 事実──。 「お待ちしておりましたぞ、夢龍殿」 上流両班(じょうりゅうきぞく)の屋敷が集まる、北岳地域の一郭、瀟洒(しょうしゃ)な屋敷で、夢龍は、酒席に準じていた。 屋敷の主人、内侍である金京成(キム・キョウセイ)に、呼び出された夢龍は、渋々、足を運んでいた。 前に座る、初老の宦官は、酒を勧めながら、夢龍を褒め称えている。 「壮元──、つまり、主席合格で、ここまで来られたとは、流石ですな。さぞかし、亡きお父上もお喜びでしょう」 京成は、ニヤケながら言った。決して、交わしている酒のせいではない。夢龍の父、李翁林(リ・オウリン)も、地方職を経て宮へ登り、内官として、宮殿内の雑務をこなしていた。 しかし、生真面目過ぎる性格から、物品の横流し、購入業者からの心付けなどに、異を唱える。 それが、本来の官の姿であるのだが、既に、腐敗は蔓延し日常化していたのだから、当然、翁林は煙たがられた。 京成のニヤケ顔は、それを揶揄しているのだ。 「時に、夢龍殿?最終科目は、いかがいたしますかな?」 「……漢詩……でしたか……」 夢龍は、控えめに答えた。 杯をチビチビと、あけながら、京成は続ける。 「梅花、辺りで、手を打つか、と、摂政様は、おっしゃっておられたが……」 「梅花……」 いい含む夢龍に、京成は、薄ら笑みを浮かべる。 「春の訪れが、待ち遠しく、世の中にも、緩やかな春の時が流れるように……王朝にも、永遠の春が訪れるように……などと、貴殿は、綺麗事で、まとめられるか?」   京成は、当日出される題目を、試験官でもないのに、しっかりと掴んでいた。 そして、あとは、夢龍次第だと言いたげに、冷めた視線をよこしたのだった。
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