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土間には机を並べ、外には、縁席と、筵を敷いた、小さな酒場には、異常な活気があった。
田舎で良く見る様式の、店の奥からは次々、酒とつまみが、運ばれている。
若い女達が、愛想笑いし、外の風に当たりながら酒を酌み交わす客へ、注文の品を運んでいた。
その片隅で、きゃっと、小さな声が上がった。
「ちょいと!うちの子に、なにするんだい?!」
「なーに、挨拶しただけよ」
酔いから、呂律が回ってない客が、へらへらと、笑った。どうやら、酒を運ぶ女の体に触れたようだ。
古株だろう、きつい顔をした女が、すぐさま、飛んで来くる。
「うちはね、酒とつまみを売る店なんだ。女達は、お客さんが、思っているような、役目を負ってないんだよ」
「けっ、なに言ってやがる。あれは、なんだ!女が、酒を注いでるぞ!」
「そりゃ、うちも、酒を扱う以上、そこまでは、やりますよ?じゃあ、お注ぎしましょうか?」
と、背後から、清んだ声がしたとたん、客は、わあっ!と、叫んだ。
「あ、手が滑った」
色白で、切れ長の目の、都でも十分通用する美人が、客の頭から、酒注いでいた。
「よっ!春香!!いいぞっ!!」
他の客から、一斉に女に向かって声がかかる。
「このぉ!!」
酒浸しになった客の男は、春香と呼ばれた女に、掴みかかる勢いを見せた。
と──。
「ここは、騒がしい。余所で、ゆっくり話しましょうや」
並みの男より、頭一つ抜け出た、血の気の多そうな、がっしりとした体つきの男が、酔った客の襟首を掴んでいる。
「な、な!」
酔った客は、つと、振り返り、自身の体を拘束する軒並外れた体つきの男を見た。
その外見は、背丈だけなく、容姿も明らかに、この国の者とは、違っていた。茶色の髪に、緑瞳……。
「禽獣かっ!!」
「それが何か?」
「ええぃ!離せ!汚らわしいわっ!」
あー、はいはい、それじゃあ、と、いい放つと、男は、客の襟首を勢い良く離した。酔いが回っていることもあいまって、客の男は、座る縁台から、地面へ、まともに転がり落ちる。
「く、くそっ!!!お前っ!!」
周囲の、好機の視線と、みっともない自身の姿に、客の男は、覚えておけよ、と、お定まりの言葉を吐くと、転がるように逃げ去った。
「あー、お代。飲み逃げかいっ」
春香の悔しげな、つぶやきに、他の客は、一斉に、大笑いする。
「手間かけたねぇ、黄良」
「いやいや、春香、オレは、ここの用心棒、自分の仕事を果たしただけよ」
見た目際立つ男──、黄良は、淡々と言った。
「よっ!男だねぇ!」
「さすが!黄良!南原一の用心棒!」
客達は、口々に囃し立てる。
「あー、どうせなら、天下一、とかにしといてくれよ。南原一じゃーオレの格に合わねぇだろう?」
黄良の一言に、どっと、笑い声が上がった。
「そんじゃー、邪魔者は、消えるぜ、皆、おとなしく、飲んでくれよ!」
おお!と、威勢のいい返事に送られて、黄良は、踵を返した。
「春香」
と、途中、小さな声で、店の女主を呼び止める。
うん、と、頷き、春香は、黄良に続いた。
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