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第9話『暗い海の底で』
○(飯綱の回想)幕形商店街
セミの鳴き声が響く季節。
地方車に続いて、踊り子達の隊列が商店街を進んで行く。地方車の大音響と鳴子の音が商店街に広がっている。
その商店街の片隅に木造家屋の飯綱家。二階の室外機が音を立てて回っている。
○(飯綱の回想)飯綱家・二階・飯綱の部屋
カーテンを閉めた暗い和室。デスクトップPCの灯りが光っている。
PCを見つめる飯綱湊人(19)。部屋着で髪はボサボサ、無精ひげを生やしている。
祭り囃子が、部屋にも届いている。
飯綱「(いらだち)うるさい」
PCを操作する飯綱の側に、深海魚の外装をした小型の電子装置(小型の電磁パルス発生装置)。装置のランプが赤から青に変わる。
飯綱「完成だ」
飯綱が笑みを浮かべながら、装置を手にする飯綱。
飯綱「電磁パルス発生装置。これで半径五キロの電子機器は全て停止。騒音はすぐにやむ」
飯綱が、電子装置のスイッチを押す。
が、祭り囃子は止まない。
飯綱「なぜだ? 理論は完璧なはず」
椿姫の声「ああ、完璧だった」
突然の声に驚き、飯綱がふすまに振り返る。
飯綱「誰だ!」
開くふすま。その先に立つ踊り子衣装の椿姫(17)とスーツ姿の神酒谷消吾(37)。
椿姫「この装置がなければな」
椿姫の手に飯綱と同じ装置。
飯綱「お前は? どこでそれを手に入れた?」
椿姫「私の名前は椿姫。これはかつて“ある男”から受け取ったものだ。これがお前の装置を破壊した」
飯綱「あり得ない」
椿姫「あり得るさ。お前の装置よりもはるかに指向性を高めた装置の開発くらい、あの男の手にかかれば造作も無い」
飯綱「俺を捕まえるのか?」
椿姫がフッと笑う。
椿姫「神酒谷。飯綱湊人の想定される量刑は?」
神酒谷「国家反逆罪で、良ければ死刑。悪ければ諜報機関に捕まり、洗脳。その頭脳を死ぬまで使われ続けるでしょう」
飯綱の顔が引きつる。
外から響く鳴子の音。
椿姫「飯綱湊人よ。私に仕えよ」
飯綱「は?」
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