第9話『暗い海の底で』

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椿姫「今のお前は音響機器を止められるだろう。だが、鳴子の音も、人々の熱気も止めることはできない。人間の心の領域に踏み込むことは誰にもできないからだ。だが、私に仕えれば、それも可能だ」    椿姫が手を差し伸べる。 椿姫「私の手を取れ。その領域を見せてやる」    飯綱が無言で手を伸ばし、椿姫の腕をつかむ。 ○JNGX社・会長室    飯綱湊人(25)が、会議用のテーブル席に座っている。テーブルの上には、(かつて椿姫が所持していた)装置が置かれている。    作務衣姿の祭谷龍馬(28)と日沼冬舞輝(17)の言い合いが聞こえる。会長席に座る祭谷が、書類を手にしている。向かいに立つ冬舞輝。 冬舞輝「承認願います」 祭谷「(書類を横目に)って言っても、椿姫の肝いり案件なんやろ?」 冬舞輝「海洋資源の探査・採掘は、当社の基幹事業ですから」    書類に目を落とす祭谷。瀬戸内海の地図が描かれ、海上に×印が印字されている。 祭谷「『北緯34度16分46秒、東経133度28分40秒』ねえ……。飯綱君はどう思う?」    ハッとして顔を上げる飯綱。 祭谷「また椿姫のことでも考えちょったやろ?」 飯綱「……」 祭谷「図星やったみたいやね。そんな飯綱君に良いこと教えちゃる」    祭谷がペンで、書類にサインする。    立ち上がる祭谷、冬舞輝に書類を渡し、飯綱に近づく。    祭谷が服の中に忍ばせた新聞記事(スクラップ)を取りだし、飯綱に見せる。 祭谷「椿姫の居場所」    祭谷を見上げる飯綱。 ○土佐湾沿いの道路    太陽に照らされた海面。海岸沿いの道路を走る貸切バス。バス車内の団体名ステッカーには『帯屋町高校様』の文字。    貸切バスの向かう先に、月観浜、メタンハイドレート備蓄基地が見え、基地から海に向かって海上トンネルが延びている。 ○同・車内    窓側のシートに座るジャージ姿の若柳鳴(16)。広がる海原に目を輝かせている。 鳴「海、初めて見た!」 坂東の声「鳴は初めて来たんだね」    振り返る鳴。車内、鳴の隣に山村沙羅(16)、通路を挟んで坂東響紀(16)が座っている。 坂東「土佐の高校は海開きの前に毎年、月観浜に来るんだ」
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