5人が本棚に入れています
本棚に追加
ある小さな村に、瓜子姫という娘がいた。瓜から生まれたので、瓜子姫と名付けられた訳である。瓜を切ったのは、長年子ができなかった老夫婦であった。夫婦は大層喜び、姫を大切に育てた。
瓜子姫は、幼い頃から歌が上手かった。そのため、姫の名前はすぐに村の外に知れ渡り、多くの人が村に訪れた。その中でも、特に金持ちだった役人が瓜子姫を大層気に入り、瓜子姫のもとに毎年宝物が届くことになった。
老夫婦は深く瓜子姫に感謝し、瓜子姫も老夫婦の役に立てることを嬉しく思っている様子だった。
ある冬の夜遅く、瓜子姫のもとに来客があった。その女の髪は、真っ白であったが、女の年は二十そこらであるように見えた。
女は扉の前で立ち止まり、家の者に声をかけようか、少々迷っているようだった。女が吐いたため息は白く濁って、女の表情を隠した。
「あら、お客さんですね。行ってきます」
瓜子姫は煮ていた粥を放りだして、玄関へ向かった。夫婦はもう、起き上がることが難しかった。
「ありがとうね。でも、気をつけるんだよ。瓜子姫と結婚したいって言う人だってたくさんいるんだから」
媼の声は咳混じりに、瓜子姫の後を追った。
冬の風がキッと吹いた。戸ががたがたと音を立てた。その音がいやに不吉であった。
「…どうしたんだい、瓜子姫。瓜子姫?瓜子姫!」
いくら呼びかけても、瓜子姫の返事がないことを怪しく思い、媼がやっとの思いで起き上がると、冷気が肌を刺した。まさかと思って玄関の方に目をやると、扉が開いたままであった。冬だというのに、媼の背筋に汗が伝った。おそるおそる玄関の方を覗くと、扉の外には、冬の空気が通り過ぎるばかりだった。
最初のコメントを投稿しよう!