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はっとした顔で彼の顔を見ると、ふんわりと笑っている中に、悲しそうな、寂しそうな表情が見え隠れしていた。
あの時は何故、そんな表情をするのかと、ある意味見てしまっていたが、今思えば、忘れられない想い人でもいたのだろうと。
そこまで彼の素性は語られなかったが、勝手にそう思って、軽く嫉妬していた。
父親が勝手にその辺で拾ってきた者を、勝手に所有物にして言えた義理ではないが、この先長くないのだから、少しの間だけ借りてもいいだろう。
「坊ちゃん、大丈夫ですか?」
「・・・・・ああ、何とか」
「それは、良かったです」
本当に心底安堵したような声が上から、吐いた息と共に髪にかかった。
生暖かい。
指先が冷える部屋の中では、その一瞬だけでも暖かく感じられ、自然と小さく笑んでいた。
「雪人」
「はい、坊ちゃん」
名も無かった彼に付けた名前を呼ぶと、嬉しそうな声で返事をしたのを、フッと笑った。
「寒いから、暖をとってくれ」
「あ、はい。火鉢の火力が弱かったのですね。もう少し──」
「違う」
察しの悪い雪人に、苛立ち気に言葉を遮った。
あ、えと、と戸惑いの声が聞こえた後に、「では、羽織る物を持ってきますね」と立ち上がろうとするのを、すかさず裾を掴んだ。
「坊ちゃん・・・・・?」
「坊ちゃんじゃない。名前で呼べ」
「・・・・・失礼しました。では──満様」
耳朶を震わす、心地よい声。
これまでの人生、何もかも満たされたことが無かったから、この名はかなり皮肉だと自嘲し、今までの側仕えには呼ばせないようにしていた。
だがしかし。言葉遣いや読み書き、ボタンの掛け方を教え、そして、名を与えた『雪人』は、何もかも与えてくれたお礼にと、満が今まで欲しかったものを出来うる限り与えてくれようとした。
こんな生きていても意味の無い自分を、満たそうとしてくれた。
この想いを告げられなくても、もう十分なぐらい。
そんな雪人は「どうされました」と言うので、仕方なしに返した。
「僕を抱きしめてくれ。寒すぎる」
すると、笑みを深めて満の命令通りに、抱きしめた。
雪人はいつの間にか大きくなり、いつまでも小さい満をすっぽりと収めてしまう。けれど、それがより雪人の温もりが感じられるので、嬉しいことだ。
「満様。私もう一つ、雪が降っていて嬉しいことがあるのですよ」
「・・・・・・・・・」
この温もりが心地よくて、瞼が重くなり、雪人の声が遠く感じる。
それでも雪人は構わず続けた。
「積もったら、この想いも埋めてくれそうで。・・・・・立場上、想いも告げられないのは苦しいですが、それでもこうして、そばにいられるだけで幸せだと思うのです」
雪人の緊張気味の鼓動とは裏腹に、自身のは少しずつ聞こえなくなってくる。
息を吸った時についでに出たかのような、はっと言う声が聞こえた。「・・・・・今の言葉は、ただの独り言です」
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