五年前〜encounter(出会い)〜

5/16

3551人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
「よし、完成」 そう言われて鏡を見れば、そこに映るのはナチュラルなメイクのはずなのに、さっきまでとは印象の違う自分。 もちろんガラッと変わった訳ではない。 昔からショートボブで身長156センチ、凹凸のない身体に童顔の私は20歳を過ぎた今でもどちらかというと少年っぽさが残り、自分で言うのも悲しいけれど女っぽさがあまりない。 それなのに今鏡に映る自分はどうしたことだろう。なけなしの女っぽさが彼によって引き出されたかのようだ。 この人は、この短時間で一体どんな魔法を使ったのだろう。 「う……わ、すごい……」 「ま、一応プロなんで」 その時鏡越しに戯ける彼と目が合って、なぜか胸がとくん、と音を立てた。 「さ、急がないと。あんまギリギリになっても心象良くないだろ?」 「あ、あの!本当にありがとうございました!何とお礼を言ったらいいか……」 ケープを脱がされながら心からのお礼を伝える。 「礼はいいから。ほら」 手を引かれ立ち上がり、彼が取って来てくれたジャケットを着せられ、まだ肩口に水の染みが少し残るコートとバッグを受け取る。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3551人が本棚に入れています
本棚に追加