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さびしさと、うれしさ
さびしさとうれしさはね、対になっているものよ。ふしぎ、ふしぎね。
淋しくなって、ないているのね。
嬉しくなって、ないているのね。
あなたはいつも、ないているのね。
あなたの涙を1滴掬って、土に零したら、ユリの花が咲きました。雌しべがとってもきれいなの。
わたしはそれを朝から晩まで愛でて、ささやかな歌を捧げました。音痴だって言うんでしょう。ええ、もちろん。音痴よ。それでもいいじゃない。こころがこもっていれば。
あなたは最近なかなくなったのね。まいにち仕事から帰ってくると、花瓶に入れたユリを見て微笑むのね。変わったわね。
笑うのはいいことよ。あなたが笑えば、わたしも笑えるもの。家の中に笑顔が生まれるのは、とてもいいこと。食事もすすむわ。
あなたは最近わらわなくなったわね。痛いところでもあるの? 苦しいことでもあるの? しまいにあなたはなんにも言わなくなった。
さびしいのか、うれしいのか。泣いていてくれたほうが、よっぽどよかった。
だってもう、あなたのこころは見えなくなってしまったもの。
あなたのためにいけたユリも花弁を落としました。雄しべがしわしわになっています。
わたしは、あなたの瞳にじぶんの涙を1滴零しました。
あなたは人形のよう。口もきけずに、わたしを見つめる。その目がね、愛おしいのよ。ひとりじゃなんにもできなくなってしまったあなたがね。かわいらしいのよ。
翌朝、ユリを捨てました。あなたは暖炉の前で座りながら、隣にいるわたしの長い髪を耳にかけてくれる。
もう、ないていないのね。
あなたはわたしだけのいのちになった。
わたしはあなたを生かしてあげる。
あなたはわたしにさびしさとうれしさを与えてくれる。
ふたりは対なの。
10ヶ月後には、もう1人増えるそうよ。最近はそれが、ひどく楽しみなの。
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