さびしさと、うれしさ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

さびしさと、うれしさ

 さびしさとうれしさはね、対になっているものよ。ふしぎ、ふしぎね。  淋しくなって、ないているのね。  嬉しくなって、ないているのね。  あなたはいつも、ないているのね。  あなたの涙を1滴掬って、土に零したら、ユリの花が咲きました。雌しべがとってもきれいなの。  わたしはそれを朝から晩まで愛でて、ささやかな歌を捧げました。音痴だって言うんでしょう。ええ、もちろん。音痴よ。それでもいいじゃない。こころがこもっていれば。  あなたは最近なかなくなったのね。まいにち仕事から帰ってくると、花瓶に入れたユリを見て微笑むのね。変わったわね。  笑うのはいいことよ。あなたが笑えば、わたしも笑えるもの。家の中に笑顔が生まれるのは、とてもいいこと。食事もすすむわ。  あなたは最近わらわなくなったわね。痛いところでもあるの? 苦しいことでもあるの? しまいにあなたはなんにも言わなくなった。  さびしいのか、うれしいのか。泣いていてくれたほうが、よっぽどよかった。  だってもう、あなたのこころは見えなくなってしまったもの。  あなたのためにいけたユリも花弁を落としました。雄しべがしわしわになっています。  わたしは、あなたの瞳にじぶんの涙を1滴零しました。  あなたは人形のよう。口もきけずに、わたしを見つめる。その目がね、愛おしいのよ。ひとりじゃなんにもできなくなってしまったあなたがね。かわいらしいのよ。  翌朝、ユリを捨てました。あなたは暖炉の前で座りながら、隣にいるわたしの長い髪を耳にかけてくれる。  もう、ないていないのね。  あなたはわたしだけのいのちになった。  わたしはあなたを生かしてあげる。  あなたはわたしにさびしさとうれしさを与えてくれる。  ふたりは対なの。  10ヶ月後には、もう1人増えるそうよ。最近はそれが、ひどく楽しみなの。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!