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時を司る神は、どこか遠くへ飛んでいってしまわれた
いつまでそうやって寝ているんだい?
同じ時代に同じ歩幅で歩んでいたら、親友になれたというのに。
きみはまだ赤子じゃないか。寝返りもうてない、自分で食い物も口に運べない。弱いいきものじゃないか。
きみを見ているとなんだか無性にこころがざわざわするんだ。つぶらで、なんにも知らないで。そんな無垢な瞳がわたしを見上げる。その視線をわたしは受け取ることができない。きみの目の中に、自分を入れることに拒絶する。
わたしはもう、老人になってしまった。杖をついて、鼻息混じりの歌を歌う、庭先を散歩するだけのつまらない男になってしまった。
子どもよ。先に、さらばだ。わたしより、いい夢を見れたらいいね。さようなら。
彼と同じ時代を生きられないこと。これ以上の苦痛はない。
時は無情だ。すとすとと過ぎていく。
親友になれたかも、しれないのに。
きみを置いていくわたしをゆるしておくれ。後に土産を置いておくから。おおきくなったら、それを開いてごらん。伝えたいことが、たくさんあるんだ。水のようにうつくしい言葉をきみに聞かせたいんだ。
わたしがひとりで旅してきた道の途中で拾い集めてきた言葉をきみにおくるよ。きみの力になればいい。きみの勇気になればいい。
ちいさき子よ。母親の乳房の味に飽きたら、1人立ちしなさい。
このせかいは、きみのためにあるのだから。
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