うつくしさの原理

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うつくしさの原理

 蝶のうつくしさはね、蛹より前の虫のいのちから生まれているのだということを、忘れてはならないよ。  ねえ、きみはそんなぼくを愛せる?見た目だけが変わっただけのぼくを、見れるのかな。  元々醜い虫だったぼくのことを、どう思うんだろう。蝶になったら、愛でてくれる? 見た目を小綺麗にしたら、そばに置いてくれるの?  ううん。ちがうね。きみは正直者だから、ぼくの過去を知ってきもちわるいと思いながらも、ぼくの今のうつくしさにこころをゆるして身体を開いてしまうんだ。辛いね。かわいいね。かわいそうだね。そんなきみが、きみらしい。  醜さも、弱さも、嫌悪も。きみは全部受け止めてくれた。その細く、薄い身体で受け止めてくれた。それがうれしいんだ。うれしくて、儚くて、悲しいんだ。泣きそうな顔をしているね。どんなに、辛かろうね。ぼくのすべてを知っているから、なくんだろう。  知らなければよかったね。蝶はもともと蝶として認識されるべきだった。蛹の前の姿なんて、誰も知りたくはないだろう。  きみは嫌悪する。嫌悪を隠せずぼくに媚びる。ああ、ああ。神様が見てたら、きっと指さして言うんだ。 「なんて悪い子でしょう。天罰を与えなければ」  きみはぼくのことを忘れてしまった。ぼくの声も、ぼくの言葉も、なにも届かない。きみの思考は停止している。けれど、こころの奥の奥。からっぽの器にわずかに残った部分が叫んでいるんだ。 「うつくしい、うつくしい。あなたの顔はうつくしい」 って。なんて、真人間。まっすぐで、曲げられなくて、赤裸々で。  ぼくはきみの世話をしながら、いきてるよ。  きみが褒めてくれる顔を、身体を衰えさせないように。きみを、満足させられるように、今日もがんばってる。じゃあ、今からプランク50秒5セットをやるよ。時間ははかってね。はい、はじめ。  きみをきみらしくさせるためには、ぼくはきれいじゃなくちゃいけないんだ。 って、ぼくはまいにち鏡の中の自分に言い聞かせてる。
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