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47.試されてる気がする
遙がこういう声を上げるようになったのは、その日からだった。
痛み自体は大してないのに疲れるらしい。静電気が起こった時っぽいっていうか、突き上げられるっていうか。兎に角、体が『びくっ!』ってなる感じの衝撃が走るんだと言っていた。
今までになかった症状なのが気になる要素らしくて、遙は何度も怪訝そうな顔をしていた。けど、本当に大丈夫か? って訊いても「簡単には良くならないものだから」と「昴は充分助けになってくれている」しか返してくれない。
でもその後で「一進一退だな……」って呟いてるのが聞こえちゃった方としたら、こっちのモチベ気にしてくれてる事よりも、心配の方が勝った。
そう。心配な気持ちはあるんだよ、ちゃんと。
「ぁ……っく、んっ…………ぅあっ」
けど、それはそれ。これはこれだ。
「あのさ!」
オレに背中を凭せ掛ける人への呼び掛けが、不自然に上擦った。こういう反応をするようになってまだ数回っつっても、毎度毎度は困る。限界だ。何の限界かってのは考えないとしても、終わってから話そうと思ってた事がボロっと出るくらいには色々良くない。
「っ……どう、した?」
「何つーかその…………。声、もうちょい抑えらんねぇ?」
「うるさ、かったか? すまない。」
そういう事じゃないんだけど。と謝る手前で、じゃあどういうつもりだったんだよ? と何処からか問われる。んな事、分かってるなら逆に教えて欲しい。
「ふっ……、んぅ、んっ」
そんで、律儀な人はオレの要望に直ぐ応えて、手でしっかりと口元を抑える。
こんな反応を今まで通りベッドの前でうつ伏せでやられて、いつまでも平気でいられる程オレは図太くない。向かい合うのも、正面から寄り掛かられた日に無理だわってなった。
じゃあ後ろから支えてみようって事で背中をオレに預けた遙は、足を引き寄せて懸命に耐えようとしていた。声を押し殺す度に爪先がきゅっと丸まり、くぐもった息遣いに合わせて細かく震える肩が目に入る。やばい。これもダメだったかも。
「っん、んん!」
遙の体がびくんっと跳ね、仰け反った首筋の白を視界の端に捉えた途端に、どうにも耐え難い何かが一気に溢れそうになった。
「っ、やっぱなし! さっきのなしで良い!」
「……ん、……っ?」
ふはっ、と詰めた息を吐いた遙が首を巡らせる。焦点がぼんやりしたままの眼がちらりと見え、不自然に視線を逸らせてしまった。
「やっぱ、いい。無理に抑えなくて」
「しかし、気になるのであればやはり……」
「いやいい! 本当、嫌だったら言うし、辛そうなの見てる方が集中出来ねぇから!」
直視出来ないまま、それでも何とか取り繕う。遙はになる素振りをしつつも、納得してくれたみたいだった。
もう一度体が預けられ、支える掌に重みが加わる。息遣い一つ一つに、こんなに神経が持って行かれるなんてどうかしている。鼻に掛かった声色で胸が騒つく理由も分からない。
苦しそうで、泣いてるみたいで。耐えているのに、抑え切れないものが溢れてしまっていて。
それを全部まとめて、違うものに結び付けそうになっている自分にひどく焦る。それから、少しも気持ちが悪いと思わない事にも。
何だ。これも魔法の仲間か。気持ち悪く聞こえないようにって、色々間違った調整でもしたんじゃねぇのか? っていうか……。
本当に、どうしてこうなった。
ここ最近で定番になってしまった疑問が、こっそり吐いたため息と一緒に天井へ吸い込まれていった。
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