真夜中文芸部には闇がある

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「家庭科室……? 珍しいわね、山内さんが仕事中にPC室抜け出したがるなんて」  首をかしげる林さん。一方山内さんは、「これは厳密にいうと仕事じゃないから」とすましている。  林さんの言葉通りこれはほぼ仕事____正確には部活だった。もっと正確に言うと部活動という名目の林さんのワガママだ。  林さんは中学二年生、文芸部所属。こう見えて文芸部エースと呼ばれる天才だ。  そして山内さんは、文芸部が強豪すぎるあまり作られた、この学校にしか存在しない部活『編集部』の部員。担当は林さん。  作家と編集者という関係上、二人は何かと一緒に居ることが多い。  たとえば今日。 「一応私の仕事は部誌とか、部活で書く小説関係なのよ。なのに、百億年ぶりくらいに林さんから『今日中に絶対新作を書く』って言葉を聞いて、先生を脅……平和的話し合いをしてパソコン室を夜まで使えるようにしたら、まさかの推し作家の誕生日記念」 「うるさいオフトゥンぶつけるわよ! ちゃんと聞こえてるからね!」  あああ終わらない間に合わないやばいやばい時計見たくないい…、とブツブツ言いながら、林さんはぱっと頭に蛍光灯を光らせた。 「アイデア思い付くときに電球を光らせるのはもう古いって気持ちは分かるけど、かといって蛍光灯にする普通?」  山内さんの冷静な言葉を無視して、林さんはくるりと椅子を回すと優雅に頬杖をつき、ハードボイルドな顔をして窓の外を見る。 「ねえ……。外を見て、山内さん。今宵の空は星が……美しいわね……」 「遮光カーテンしか見えないけど」 「なんて素敵な夜なのかしら。嗚呼、月の声が聴こえる……呼んでるわ、私を。おいで……って……」 「あと十二分」 「やあああめええええてえええええ!!」  山内冷酷カウントダウンが始まった。
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