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ハァ、と悪魔大王アコニートゥムは深いため息をつく。老体に不似合いな俊敏さでジュネスの元へ駆け寄ると、姉に隠れて縮こまる襟首を掴み引きずり出した。
「バカ者。可哀想なのは、お前だ!」
「ヒィッ」
面前で怒鳴られたジュネスは、幼い子どものように耳を塞ぎしゃがみこむ。
「残酷な仕打ちで敵対する者に恐怖を与え、財を奪い、領土を侵略することが我々悪魔の生業。何度教えれば理解できるのだ!?」
「だって……」
「だって、じゃない! そんな甘えた戯言を言っているから、成人前の285歳になっても角一つ生えてこないのだ!」
ジュネスの艶やかな黒髪を乱暴に分け入るも、何の手応えもなく。父であり大魔王でもあるアコニートゥムは、さらに深くため息をついた。
「修行へ行け」
「え?」
唐突な父の提案に、ジュネスは面を上げて泣き腫らした瞳を瞬かせる。
「行き先は人間界。有象無象の悪を抱えると言われる人間たちに混じり、邪な心を育てるのだ」
「に、人間界?」
予想外の提案に怯えるジュネスに、アコニートゥムは己の背丈ほどある大魔王家の紋章入り杖を容赦なくドーンと突きつけた。
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