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「母には、まだ伝えていないの……彦一さんとお付き合いをしていることを。古い考えの母だから、初めての顔合わせが病院だなんて……気に病んで、ますます病が進行してしまうわっ」
「そ、それは良くないね!」
面前で両手をバタバタと震わせながら、彦一は青ざめる。
「今日は、彩女ちゃんとずっと一緒にいたかったけれど……お母様のところへ行ってあげて」
「ごめんなさい、彦一さん。ありがとう。あっ……」
バッグの中身を探りながら、今度は彩女が青ざめた。
「私ったら、お財布を忘れてしまって……」
「うん、ここの支払いは僕が済ませておくから。気にしないで!」
「いや、あの……そうじゃなくて、病院までのタクシー代……」
「あ、うん、そうだね!」
催促されてようやく気づいた彦一は、自身の財布から幾枚かの万札を取り出し━━。
「はい、いってらっしゃい!」
その内側に挟まっていた千円札一枚を、まるでトランプのババを差し出すように彩女の掌へと置いた。
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