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「……んだよ、あのケチ男」
彦一からせしめた千円を握りつぶしながら、彩女は苦虫を噛み潰したような表情で口を曲げる。先ほどのしおらしさとは打って変わって、憎たらしい悪女そのものな顔だった。
「お前なんかとセックスするわけないだろ、薄ハゲ豚野郎!」
人気のない昼間の公園で、誰の目も気にすることなく、ようやく高らかに本音を吐けた。
「まぁ、いっか。バッグを売れば……」
━━何が『見返りも邪な気持ちもない』よ。
与えれば相応の見返りを欲しがる。
見返りの中には、邪な気持ちが漏れなくついてくる。
「そんなこと、当たり前じゃないの」
母が救急で運ばれた━━なんていうのは、もちろん真っ赤な嘘だ。貢ぎ物を頂戴したら速攻で別れられるように、スマホに着信音と同じメロディのアラームを予め設定しておいて通話を装ったのだ。
まさか、搬送先を尋ねられるとは思わなかった。この町で一番大きな病院の名前を伝えてしまったけれど……。
「そこまで調べるほど、執着しないでしょ」
木陰に覆われたベンチの上で、脱力したように彩女は手足を投げ出して座った。心なしか、空の色が薄暗く変わったように感じる。
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