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「夕立……?」
つぶやいたのも束の間。
ドロドロとした黒く分厚い雲が頭上に現れるや、稲光と同時に卵の殻のごとく真っ二つに割れた。
「か、雷が来る。逃げな……キャー!」
ドーーーン!
盛大なドラの音のような響きが、地面に屈んだ彩女の頭上で鳴った。
*
━━どれくらいの間、気を失っていたのだろう。
薄ぼんやりと視界が開けてくると同時に、彩女の瞳に黒髪の美青年が写りこんだ。
「お姉様、気がつかれましたか?」
「お姉様!?」
思いもよらない呼びかけに、冷水を浴びせられたかのように飛び起きる。
一人っ子として育った彩女に、弟は存在しない。ましてや金回りのよくない年下の男と関わることなど、二十四年の生涯において一度たりとも覚えがなかった。
「アイリスお姉様ではないのですか? 心配して僕を追いかけて来られたのかと……」
「アイリスって。確かに苗字は大山だけどさ。私は彩女。誰と勘違いしているのかしらないけど……」
意味不明な会話を繰り広げる中、彩女は不思議な青年の奇抜なファッションに目を奪われた。
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