5人が本棚に入れています
本棚に追加
金の刺繍で縁取られた黒いサテン地のマントに、黒い軍服状のワンオール。胸元には一角獣をモチーフにしたようなエンブレムがあしらわれている。
「ねぇ、君……」
「何でしょう、お姉様」
「お姉様ってのは、やめて。『彩女さん』でいいから」
「何でしょう、彩女さん」
「ビジュアル系のバンドとかやってるの? それとも、痛い系のレイヤー? その衣装、懐かしの『マリスなんちゃら』みたいね」
何を言われているのか皆目見当もつかない━━といった様子で、小首を傾げながらジュネスは答えた。
「マリス? 僕の名前はジュネスです」
「ジュネス~!?」
━━アーティスト名? 本名? キラキラネーム? ダメだ、こりゃ。
自身の体を覆うように両手で抱きすくめ、彩女はオーバーに身震いをしてみせた。
「寒っ。寒いんだけど」
「寒いの? よかったら、僕のマントを……」
「いらないってば。そんなテラテラのマントで、温まるかー!」
やいのやいのと押し問答する二人の前に、不穏な表情の男が一人。彩女の視界に入る距離に近づいたところで、ようやく気配に気がついた。
「お母さんのこと、嘘だったんだね……彩女ちゃん」
最初のコメントを投稿しよう!