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「え、これ彩女に?」
こうなることは、最初から分かっていた。目の前にいる冴えない男が差し出した紙袋には、ハイブランドのロゴが記されている。
「お誕生日おめでとう、彩女ちゃん。前から欲しいって言ってたよね、『ZUCCI』のバッグ」
━━すべては、筋書き通り。
大山彩女は、ニヤリとほくそ笑みたくなる衝動を抑えつつ、小首を傾げた。
「でも、悪いわ。こんな高級なお品物……」
「いいんだよ。僕が贈りたいから、贈るの。見返りが欲しいとか、邪な気持ちなんて1ミリもないから!」
「そぉ……じゃあ、ありがたく受け取らせてもらおうかな……」
おもむろに両手を差し出し、彩女が丁寧に紙袋を受け取ったその瞬間。『邪な気持ちは1ミリもない』と言った舌の根も乾かぬうちに、いそいそと男はカフェの椅子から立ち上がり、彩女の手を取り囁いた。
「この後の予定なんだけど、ホテルの部屋を取っ……」
ピコポコペン、ピコポコペン……。
男の誘いを遮るように、彩女の携帯電話が小気味よいメロディを鳴らす。
「あら、電話だわ。彦一さん、ちょっと失礼!」
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