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男━━もとい彦一の汗ばんだ手を振り払い、彩女はスマホの画面を覗きこむ。細い人差し指を素早くスライドさせるや、「もしもし、私です」と神妙な顔で通話を始めた。
「はい……はい……そんなっ。分かりました、すぐに病院へ向かいます!」
「び、病院!?」
携帯電話に向かって放った彩女の一言に、彦一は激しく動揺する。通話を終えた彩女は、心から申し訳ないといった表情で彦一に頭を下げて詫びた。
「ごめんなさい、彦一さん。母が、母が……」
「え、心臓病を患っているお母様が、どうかしたの?」
「突然に発作を起こして、救急病院に運ばれてしまって……」
「な、何だってぇー!?」
彦一の叫びが、カフェのフロア中に轟く。注目を浴びた恥ずかしさから一頻り頭を下げ縮こまると、小声で彩女に尋ね返した。
「どこの病院なの?」
「あ、あの……門倉総合病院……」
「僕、ついて行くよ。彩女ちゃんが心配だから」
「ひ、彦一さん!」
今度は彩女が声を張り、注目を浴びる。二人は再び縮こまり、彩女はさらに頭を低く下げながら訴えた。
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