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よく、『授業中に睡魔が忍び寄る』などと言うが、こんな眠れない夜にこそ忍び寄ってきて欲しいものだ……。
俺はベッドの上で通算59回目の寝返りを打ちながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「眠れねえ…………」
こんなに寝つけない夜は初めてだった。不眠症などではなく、明日に入れている【予定】が原因。
着る服も決めてあり、店の予約も一週間前に入れてあり、待ち合わせ場所も時間も相手に確認済み。だからあとはもうただ眠って明日の朝を迎えれば良い。
でも、眠れない。
俺はため息をついて、仰向けの姿勢からうつ伏せになると、枕元に置いたスマホを手に取った。時刻が「2:14」と表示されて、がっくりと肩を落とす。
嘘だろ。ベッドに入ってから二時間以上が経っている。
眩しさに目を細めてブラウザを開き、「眠れない どうすれば」と検索窓に打ち込んだ。
早く寝ないと明日に支障が出る。何としてでも眠らなければ……。
一斉に表示された検索結果をスクロールしていく。
【羊を数える】。
そんな古典的な方法で眠れると思ってんのか。こちとら千匹は数えたわバカ。
【寝る前にカフェインは控えましょう】
控えたわボケ。それでも眠れねえんだよくそ。
【子守唄を歌ってもらう】
歌ってくれる人がいねえよ……。
はあ、とため息をついて枕に顔をうずめる。洗濯したばかりの枕カバーからいい匂いがして虚しい。
さらに指で検索結果をスクロールしていくと、ある広告が視界に入った。
【眠れないあなたへ。レンタル睡魔サービスを実施中。初回利用者にかぎり90%オフ!24時間通話無料!】
なんだこれ……。
睡魔をレンタル? というか、睡魔って実在すんのか? 人間の想像上の生き物っつーか、何かそういうイメージが強えんだけど……。
胡散臭く思う気持ちがなかったと言えば嘘になる。でも、24時間通話無料、初回利用90%オフ、というのがどうにも魅力的だった。
俺はどうしても眠らなければならない。入眠させてもらえるのならありがたいことこの上ない。
気がついた時には、俺は【レンタル睡魔】のサイトを開き、電話を掛けていた。
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