レンタル睡魔ちゃん

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「……お前、本当にそれでも睡魔なのか? 何の役にも立たねーじゃねえか」  俺は後頭部を()きながら、気がつけばそんなことを口走っていた。  睡魔がシュンと肩を落とす。 「呼び出したのは俺だけど、一応これ仕事でやってるんだろ? せめてもう少しちゃんとしろよ。何か魔法とかねえのか? ほうきで空、飛んでたじゃねえか」 「あのほうきは支給されている魔法のほうきですが……、私自身は魔力は持ってないのです。選ばれた何人かの睡魔しか魔法は使えなくて……。魔力を持つ優秀な先輩たちは皆駆り出されてるし……。暗いニュースが多くて不安で眠れないって人が最近多いので、睡魔レンタルの需要って結構高まっているのです」 「じゃあ、その優秀な先輩がたに魔力以外で入眠させるコツとか教えてもらえばいいんじゃねえの?」 「先輩たちは顧客をまわるのに忙しくて新人に構ってる時間なんてないのです。だから、魔力も持ってない睡魔の私はこうやって実践して力をつけていくしかなくて……」  室内に沈黙が落ちる。  なるほど。一応、そんな事情があったのか。料金が90%オフだったのも、新人睡魔の仕事ぶりに納得がいかなかった客からクレームでもつけられたのかもしれない。事情も知らずに睡魔を責めてしまった。 「……悪い。お前も大変なんだな」 「いえ、私が役立たずなのは、本当のことなので……」  睡魔はすっかりしょぼくれてしまった。  これじゃ、余計に俺を入眠なんてさせられなさそうだ。ひとまず、元気を取り戻してもらわないと。何かないか、こいつが元気になりそうな話。  そう思い返し、そういえば、デートって聞いた時はうれしそうだったな、と思い出した。 「……あー、あのな、明日会う人……香奈さんっていうんだけど」 「?」 「香奈さんと初めて会ったのは、バイト先なんだよ。俺がレジ打ってて、香奈さんが客としてコンビニ来てて。毎日決まった時間に来るから俺も覚えてたんだけど」 「へえ……!」  睡魔の目が大きな目が輝きだした。
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