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彼はバーにいた。
そして、杯からこぼれた酒や、吸い切られなかった煙草などで薄汚れた机に向かって、紙を広げて、何か書きつけていた。
彼の手には、万年筆が光っている。この万年筆は、相当な値段がしたことを彼は想い出す。今、改めて考えると、あれは間違いなく詐欺であった。値段の割にはインクの出が悪いし、すぐに切れる。
彼は、これを半ば自棄糞で買ったのである。
「この万年筆は何円するんだ?」
「……五〇〇ドル」
「……」
「まけてやるよ。四五〇ドル」
「買う。ほら、六〇〇ドルだ」
「お釣りは……」
「いらない」
「嫌なことでもあったかね」
「いや」
「……よく寝ることだな」
そんな会話を、古臭い文房具屋でしたことも、想い出した。
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