約束

雨の日の午後

「………落ち着いて聞いてね？」

暫く音信不通でいた夢子から携帯電話に着信があった。………夢原夢子。東京の町にある大学に通っていた頃に知り合ったサークル仲間のひとりだ。どんなサークルだったかと言うと、演劇サークル。大学の講義には段々と出席しなくなりがちだった私だったのだけれど、それでも、当時演劇に魅了されてしまっていた私は、欠かさずサークル活動には参加していた様に思う。

今でも付き合いのある友人は、その頃に知り合った仲間ばかりなのかも知れない。

当時、私は、出演者として活動していたのだけれど。何しろ、実家での人間関係がズタボロなもので、お家に帰ると必ず父親と母親の喧嘩を目の当たりにしている毎日。出来る事なら別の誰かになりたかった。そんな思いが変身願望を生み出し、女優と言うか何と言うか、役者魂に火を付けたのかしらねぇ。

大学を卒業してからの私は、演劇とは関係の無い一般事務の仕事をしていた。このまま誰かと出会い、恋をして、ひょっとして、ひょっとしたら、結婚って言う選択肢もあり得るのかも？………それでも、退屈な毎日。ありきたりの生活。まるでいつかは死ぬのを待っているかの様な錯覚に囚われながら、今日の日もタイムカードを押す。

そんな矢先での出来事だった。