回想

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そんな昔のことを回顧しながら、僕は再び暑中見舞いに目を落とす。 やっぱり君は きれいだ。何年重ねても、それは変わることがなく、僕の鼓動をまた蘇らせる。 あれからしばらく、誰かと一緒になることはなかった。今日も一人、それなりの生活を送っている。 先日、君の家には新しい命が生まれた。 写真の中で奥さんの胸に抱かれたその子の目は、隣で笑う君とそっくりで、それは同時に、君が他の人と一緒になったという現実を僕に柔く突きつけた。 もう終わったこと。 そう自分に納得させても、鼓動は鳴り続けている。 『暑中見舞いありがとう。お子さんたち可愛いね。』 もう終わったこと。 そう自分に諭して、短いメッセージを送る。 『育児に毎日奮闘中です。』 もう終わったこと。 そう自分に言い聞かせて、レターボックスの蓋をパタリと閉じる。 もう終わったこと。 毎年のように呟いて、胸の鼓動を静かに落とす。
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