10人が本棚に入れています
本棚に追加
要領も頭も運動神経も悪い。くじ運も悪い。
高三の時のクラスはお調子者が多くて、教室の座席を手作りのくじで決めていた。しょっちゅう席替えだと言っては幼稚に盛り上がるが、僕は片瀬の近くに座れたためしがない。
せめて片瀬より後ろの席なら、背中を見ていられるし、たまに振り返ってプリントを回したり、後ろの奴と喋ったりするあいつを見られるのに、いつも俺の方が前の席なんだ。
「おい、深沢ぁ」
その日、新しい席に座った途端、後ろから肩をドンと突かれた。振り向くと、三浦が立っている。
「席、俺と交換してくんね? 後ろ、あそこ」
三浦が差し出した紙には4Cとある。僕は振り返り、そこが片瀬の隣の席だと確認した。
「えっ、なんで」
三浦はしょっちゅう授業をサボり、どこかの部室で麻雀を打ったり、髪が規定より長いと教師に目をつけられたりしている。これまでほとんど話した記憶がなかった。
「なんでって、俺ここに座りてえの、てか、最近目悪くて黒板見えねんだわ」
「そうか、それなら、いいけど」
僕が立ち上がると、三浦はホイ、と4Cの紙切れを渡してくれた。
「僕、紙どっかやっちゃった」
「いーよ、そんなの。ありがとな」
三浦はそう言って笑った。
成人式の帰りに、高三の時のクラス会があった。
「おう、優等生」
端っこでぼんやりしていた僕の隣に、ジョッキを持った三浦が座る。
「どーしてんの? 大学楽しい?」
「三浦。久しぶり」
「久しぶり。なぁ、あれ、片瀬と連絡とってんの?」
三浦は、離れたテーブルにいる片瀬の方に顎をしゃくった。さっきからそっちばかり見ていた僕は、はっとする。
「とってないよ。何で急に」
「だって片瀬のこと好きだったじゃん、お前」
驚いている僕を見て、三浦は、あは、と声を出さずに笑った。
「どうして……」
「どうしてって、お前、あいつばっか見てたからなあ、すぐわかるよ」
三浦は声を落とす。
「俺は、お前を見てたからさ」
心臓がどきんと音を立てた。
「何それ」
目が合うと、三浦はあの時と同じように、優しくほほえんだ。
最初のコメントを投稿しよう!