席替え

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要領も頭も運動神経も悪い。くじ運も悪い。 高三の時のクラスはお調子者が多くて、教室の座席を手作りのくじで決めていた。しょっちゅう席替えだと言っては幼稚に盛り上がるが、僕は片瀬の近くに座れたためしがない。 せめて片瀬より後ろの席なら、背中を見ていられるし、たまに振り返ってプリントを回したり、後ろの奴と喋ったりするあいつを見られるのに、いつも俺の方が前の席なんだ。 「おい、深沢ぁ」 その日、新しい席に座った途端、後ろから肩をドンと突かれた。振り向くと、三浦が立っている。 「席、俺と交換してくんね? 後ろ、あそこ」 三浦が差し出した紙には4Cとある。僕は振り返り、そこが片瀬の隣の席だと確認した。 「えっ、なんで」 三浦はしょっちゅう授業をサボり、どこかの部室で麻雀を打ったり、髪が規定より長いと教師に目をつけられたりしている。これまでほとんど話した記憶がなかった。 「なんでって、俺ここに座りてえの、てか、最近目悪くて黒板見えねんだわ」 「そうか、それなら、いいけど」 僕が立ち上がると、三浦はホイ、と4Cの紙切れを渡してくれた。 「僕、紙どっかやっちゃった」 「いーよ、そんなの。ありがとな」 三浦はそう言って笑った。 成人式の帰りに、高三の時のクラス会があった。 「おう、優等生」 端っこでぼんやりしていた僕の隣に、ジョッキを持った三浦が座る。 「どーしてんの? 大学楽しい?」 「三浦。久しぶり」 「久しぶり。なぁ、あれ、片瀬と連絡とってんの?」 三浦は、離れたテーブルにいる片瀬の方に顎をしゃくった。さっきからそっちばかり見ていた僕は、はっとする。 「とってないよ。何で急に」 「だって片瀬のこと好きだったじゃん、お前」 驚いている僕を見て、三浦は、あは、と声を出さずに笑った。 「どうして……」 「どうしてって、お前、あいつばっか見てたからなあ、すぐわかるよ」 三浦は声を落とす。 「俺は、お前を見てたからさ」 心臓がどきんと音を立てた。 「何それ」 目が合うと、三浦はあの時と同じように、優しくほほえんだ。
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