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#2 酒場のホールデム
リーン王国の酒場の奥で、男たちが賭けトランプに興じている。
そのうちの一人、髭面の男がチップを押し出した。
「レイズ、100スターク」
対面に座っている男は、しばし考えた後、同じようにチップを置いた。
「コール」
コールしたのはこの男だけだ。
旅人なのか、その黒髪と黒い目という見た目は、明らかにリーンの民とは違っていた。
年齢は30台後半辺りだろうか、その目つきは鋭いが、他人を威圧するような空気はなく、熟練した武道家のような内面の強さを感じさせた。
すでに降りたプレイヤーたちは勝負の行方を静かに見守っている。
男たちはポーカーをプレイしていた。だが、この酒場でいつもプレイされているドローポーカーとはルールが違う。
ドローポーカーなら、まず各プレイヤーに5枚のカードが配られるのだが、2人の男の手元には2枚のカードしかない。その代わり、テーブルの中央には3枚のカードが表向きに置かれている。
この3枚のカードは全プレイヤー共通であり、それぞれが手元の2枚と組み合わせて手を競い合うのだ。
場の3枚は♥の9、♣のQ、♣の8。
このポーカーでは最初に2枚のカードが配られたとき、場に3枚のカードが置かれたとき、そして4枚目、5枚目が置かれたときにそれぞれベットする。
誰かがチップをベットした時はコールして同額のチップを賭けるか、賭けずに降りる(フォールド)かどうかを選択する。フォールドする場合、それまで自分が賭けたチップを諦めることになる。
先ほどは髭面の男がレイズし、黒髪の男がコールした。
ディーラーが4枚目のカードを置いた。
♠7。
これで場には7、8、9が揃い、もし誰かが5、6か10、Jを持っていればストレートが完成する。
髭の男は小鼻を膨らませてオールインを宣言した。髭の男のほうがチップを多く持っているため、黒髪の男がコールするなら手持ちのチップを全て賭けるしかない。
黒髪の男はしばらく考えてから、静かにチップを押し出した。コールのサインだ。場のカードはあと1枚残っているが、オールインなのでこの時点でお互いの手を見せ合う。
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