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次のカードが配られる。
フロップはすべて♣のK、J、8。フラッシュからストレートフラッシュまであり得る状況。
サワサキが200スタークと大きくレイズし、他のプレイヤーが次々とフォールドする中、ラハイアだけがコールした。
ヘッズアップだ。
ポーカーにおけるベットは主張であり、戦略だ。
いかに自分の手が強いかを誇示し、相手を降ろす。
あるいは弱い手を装い相手のベットを引き出す。
状況に応じて様々なオプションがある。
サワサキのレイズは、「自分はフラッシュを持っている」という主張と読むのが普通だろう、それにコールするということは、自分はそれ以上の手であるか、あるいは相手のブラフを見抜いたという主張といえた。
ターンは♦のA。
サワサキがチェックを選択すると、逆にラハイアが200スタークのレイズを行った。
このレイズにサワサキはしばらく考え、カードを放り投げた。
200スタークのベットを捨ててのフォールドに、テーブルがざわつく。
サワサキの手はクラブではなく♠、♦の3ペア。ブラフだ。
一方ラハイアは♣の5、Qで確定フラッシュ。
ラハイアはブラフを見抜き、サワサキは深手を負う前にうまく降りた格好だ。
次のカードが配られたが、サワサキは手に取らず、ラハイアをまっすぐ見つめながらこう言った。
「この国はカード作りで有名と聞いたが、イカサマでも有名なのか?」
全員が固まる中、ラハイアが口を開く。
「さすがだな。いつ気づいた?」
「目線だ。あんたはカードの裏のある一点を見ていた、恐らくぱっと見ではわからないような印があるんだろう。どういうつもりか知らんが、そんな手は通じんよ」
そう言うとサワサキは席を立とうとした。
その手をラハイアが掴み、引き留める。
「貴殿を試すようなことをした無礼は謝る。わけを聞いてくれぬか」
「そんな必要はない、離してくれ」
「モザークに入国する方法を探していると聞いた。わたしなら力になれる」
サワサキは動きを止め、ラハイアの話を咀嚼するように思案した。
数日前、確かに彼はモザークへの入国方法を幾人かに尋ねていた。ラハイアはあらかじめその情報を入手していたのだろう。
貴族のためのカジノを生業とするモザークへの入国制限は厳しく、それなりの後ろ盾が必要だった。
「頼む。聞いてくれぬか」
駄目押しとばかりにラハイアは頭を下げた。リーンの騎士団長たる男が見知らぬ旅人に頭を下げるのを目の当たりにして、酒場中が大きくどよめいた。
今にも掴みかかってきそうな勢いで憤っている者すらいる状況に、常に冷静沈着に見えるサワサキですら、さすがに気圧されているようであった。
「わかった。話を聞こう」
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