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#3 オーパーツ
小高い丘の上に築かれた堀と高い石壁で囲まれたリーン王国の城。
その内部にある塔にある食堂で、2人の男の会話は再開された。
城といっても瀟洒なそれではなく、国同士の戦が盛んであった時代の名残を感じさせる質実剛健な造りである。
食堂も豪華な装飾品などは一切なく、丈夫そうな木製のテーブルと数客の椅子があるのみだ。
「貴殿がモザークに何を求めているのかは知らぬが、そういう訳で我々に同行すれば入国は容易だ」
「ただし、ポーカーで勝つことが条件か」
「そういうことになるな。だが大勝する必要はない、資金を失わずに出国できればそれで十分だ」
「その程度なら、いくらでも候補はいるだろう。何もどこの馬の骨かわからぬ者を頼る必要はない」
「貴殿を選ぶ理由はもう一つある。あの新しいポーカーだ。この辺りでは知られていないルールだから、モザークも対応できまい」
「なぜそこまでモザークを警戒するのだ? 単に親交を深めたいだけかもしれんぞ。適当に金を使って楽しんで終わり、ということもありうるだろう」
束の間、ラハイアは逡巡した。
これから打ち明けようとすることには多くの秘密が含まれているため、話すとなるとやはり若干の迷いがあった。しかしすぐ心を決めた。
「先ほどのカードだが、あれは我が国のトランプを模した偽物だ。今は証拠がないが、わたしはモザーク製だと考えている」
サワサキは黙って先を促し、ラハイアは話を続けた。
「そう考えるのには理由がある。知っての通りモザークはカジノで成り立つ小国だが、もうひとつ、偽金作りという裏の顔があるのだ」
そこまで話すと、ラハイアはテーブルに一枚の銀貨を置いた。
「かつて通貨といえば金貨か銀貨だった。しかしこれらは偽造しやすいうえ、大量に運搬するのが難しい。船で運ぶ途中に沈んでしまえば2度と引き上げることができない。そこで近年はこちらが主流になりつつある」
ラハイアは懐から紙幣を取り出した。リーンの100スターク札だ。
「紙幣は軽く扱いやすいうえ、費用も硬貨より抑えることが出来る。しかし、偽造を防ぐには高い技術が必要になる。そして我が国にはどこよりも高い製紙と印刷の技術がある」
サワサキは札を手に取り、改めてじっくり眺めた。
その繊細で複雑な模様は見事としか言いようがなく、確かに偽造するのはかなり難しいと思われた。
「実際ここ数年、他国の紙幣に関しては大量の偽札が見つかっているが、スターク札だけは未然に防ぐことが出来ている」
「そして、より精巧な偽札作りのため、モザークはこの国の技術を狙っている、とあんたは考えている」
「おおむねその通りだ。未然に防いだと言ったが、一時期、稚拙な偽札が出回った。我々はそれがモザーク経由であることを突き止め、間者を2度送り込んだ。だが帰還した者はいない」
「あるいはこれ幸いと職場放棄して、今頃どこかで静かに暮らしているのかもしれん」
「かもしれん。しかし捕らえられたとしたら、こちらの疑念に向こうは気づいているはずだ。そこにこの招待状だ。用心棒が必要なのだ、ゲームに詳しく、瞬時にイカサマを見抜くような手練れが」
「信頼できる、が抜けている。大金を預けるんだろう? 会ったばかりの人間を候補にするのは、いささか過激すぎるな」
「時間が無いのでな、すべてを求める訳にはいかん。とりあえず賭けポーカーに熟練してさえいればいい。もし何かあれば……」
そこまで言うと、ラハイアは腰に帯びた剣に手をかける仕草をした。
「完璧ではないが、無策という訳でもないな。もうひとつ質問したい。なぜ、この国にだけ、それほどに高い技術があるのだ?」
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