#3 オーパーツ

2/2
前へ
/52ページ
次へ
 ラハイアは懐から小さな皮袋を取り出し、その中身をテーブルに広げた。かなり年季の入ったトランプだった。紙は変色し、端々が折れ曲がり、模様は大分すり減っている。  しかし、サワサキはそのカードに見覚えがあった。バイスクル。裏側に自転車に乗る天使の意匠が施されたトランプ。 「数十年以上前、この地にもたらされた最初のカードだ。トランプという呼び名とともに、いくつかのゲームのルールもそのときに伝わった。今となっては誰が持ち込んだかも、どこで作られたかも不明だ」  サワサキは、その古びたカードに手を伸ばした。  かなり掠れてはいるが、そんな状態でも精巧な印刷技術を伺わせるのには十分だった。 「見ての通り、当時としてはあり得ないほど高い技術で作られている。我々にはこの手本があった。誰かに作れるのであれば自分たちにも出来るはず、そう考え技術を洗練させていったのだ。結果、今では遜色のない段階までたどり着くことが出来た」 「興味深い話だ。モザークが血眼になって求める理由が理解できたよ」 「貴殿はなぜモザークを追っている? よければ聞かせてくれ」  サワサキは束の間思案したが、やがて静かに語り始めた。 「……この地には時折、時代を超越したかのような物が出現するようだ。前触れもなく忽然と、たとえばこのカードのように。これまでそれは全くの偶然によるものと考えられてきたが、ある力により、狙って引き起こすことが出来るようになったと聞いた」 「……モザークにその力があると?」  ラハイアは戦慄した。そんなことが自在にできるとしたら、何が起きるか予測ができない。 「確証は何もない。そんな力が本当に存在するのかどうかも」  サワサキは手にしたカードをじっと見つめながら、そう答えた。 「確かめたいということか。事情は知らぬが、酒場での話に戻るべき頃合いだな。我々に同行すれば、貴殿はモザークに入り込める。さらに成功すればある程度の資金も手に入れることが出来るだろう」 「その"我々"とは? 他に誰がいるのだ?」  二人の会話に呼応するように、食堂の入り口に人影が現れた。  廊下からの光を受け、シルエットが浮かび上がる。    ドレスを着た女性のようだった。手には燭台を持ち、顔は見えない。 「そこに、誰かいるのですか?」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加