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『行ってらっしゃい』
入院する前の日、何気なく祖父に言われた。
いつもはわざわざ玄関にまで出て言うことなんてなかったのに、その日はたまたまだったのか、玄関まで見送りに来ていた。
なんだかその言葉がむずかゆく、けれど暖かくて、少し気持ちがふわっと軽くなった。
会えない、と分かっても、いつかまた『おかえり』って笑ってくれるような気がする。
あると思っていた日常が、消えていった寂しさ。
ダラダラ生きていれば、叱りに帰ってきてくれそうな気さえする。
共働きの両親に変わって、ずっと面倒を見てくれた祖父母は、一緒にいる時間が長く、なんでも話した。
学校から帰ってきて一番に今日なにがあったのかを話すのも祖父で、祖母と話しながら料理をして、それを3人で食べている時間も、今思えば、幸せだった。
社会人になってからも、頻繁に帰って、話をして、ご飯を食べた。
いなくなったあの日から、なにもかも止まっているような気がしていた。
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「紗英さん、これ取引先の社長から」
同僚に話しかけられ、紗英はパソコンから顔を上げた。
「え?」
「なんか、紗英さんにいつもお世話になってるからって」
「私に……?」
紗英は記憶を遡るが、なんのことだか思い出せない。そんな感謝されるようなこと、自分なんかがしただろうか。
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