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電話を切ったあとも少しだけ紗英は電話を耳から離せずにいた。
誰にでも出来る仕事だって、みんなに馬鹿にされている気がしていた。
この歳までこの仕事をしていて、なんの成長もしていない、そう笑われている気がして、いつも肩身が狭かった。
けれど、本当は、自分が一番自分を馬鹿にしていたのかもしれない。
何も出来ない。大好きな祖父に会いにいくことすら出来なかった。
なにも面白くない毎日。なんのために生きているのだろう、ってずっと思っていた。
紗英は受話器を置き、小さく深呼吸をした。
明日、祖母を誘ってお墓に行ってみようか。
命日でもないのに来たらびっくりするだろうか。
話したいことが出来た。嬉しいことがあった。聞いてほしい。
いつもみたいに笑って聞いててほしい。
もうしばらく、ここで頑張るからって、伝えに。
『おかえり』と笑う、祖父の顔が浮かんだ。
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