眠り

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朝だ。支度をして一階に下りていく。 「お母さんおはよう」 「おはよう、彩乃。ご飯できてるわよ」 「うん」 私とお母さんは朝食をとり始めた。テレビの情報系番組では家の近くにある猫カフェが取り上げられていた。白い毛の猫が画面に映っている。 「お母さん、あの猫、可愛いね」 「そうね。人懐っこくて、まるで人間みたい。また休日に二人で行ってみるのもいいかもね」 「うん」 何気ない話をしながら朝食を食べる。 「そういえば彩乃。そこに置いてる資料はなんなの?」 机の上に置かれている紙をお母さんが指差している。 「これは、進路希望調査の紙で、お母さんにはんこ貰おうと思って」 「…彩乃、前に進学しなさいって言ったよね。どうして就職の欄にしるしがついてるの?」 「それは、私、早く働いて、お母さんの負担を少しでも減らしたいって思ってて、それで…」 お母さんの表情が険しくなる。 「彩乃、そんな理由なら進学を選びなさい」 「そんな理由って…」 「経済的なこと、お金とか、そういうことを考えるのは立派なことかもしれない。でも、彩乃、私はあなたの親なの。私があなたを養うの。だから、私が大丈夫って言ったら大丈夫なの。分かった?」 「どうして!どうしていつもそんなことばかり言って!私を頼ってくれればいいのに、全部お母さん一人で、私だって、私だってお母さんの役に立ちたいのに!」 私は椅子から立ち上がり、進路希望調査の紙を勢いよく掴んだ。しかし、紙は動かない。 「彩乃、待ちなさい!」 お母さんが紙の反対側を掴んでいた。 「離してよ!」 「いいえ、こんなの許しません」 お母さんとにらみ合う。 「どうして分かってくれないの?」 「彩乃こそ分かってない。そんな理由でなら書き直しなさい」 お互いに両手で紙を引っ張っていた。 びりっ。 乾いた音が聞こえた。その直後、紙を引っ張っていた時の抵抗力がなくなった。 私とお母さんは真っ二つになった紙を見て唖然としている。 お母さんが小さくため息をつく。 「もう、彩乃が素直に言うこときかないから破れちゃったじゃない」 何を言っているの? 私はお母さんを睨み付ける。 そして鞄を持ち上げお母さんに背を向け走り出した。 「どこいくの。待ちなさい、彩乃!」 私はドアを勢いよく閉めて家を後にした。 お母さん、どうして分かってくれないの? 自分の席につく。学校はやっぱり退屈だ。 いつもなら学校に夏希がいてくれるが、今日は欠席のようだ。 夏希、どうしたんだろう。 教室のドアが開き、先生が入ってきた。 しかしそれは担任の三野先生ではなかった。 学年主任の斉藤先生だ。 「今日は三野先生が欠席なので臨時で私が入ることになりました。それでは朝礼。委員長」 夏希だけでなく三野先生も欠席らしい。伝染病でもはやっているのだろうか。
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