眠り

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…えるか…きこ…んげんの…んな… きこ…か?きこえ…い?そこの人間の女、聞こえてるんだろう? おうおう、やっと目が合ったな。 気がつくと私は奇妙な場所にいた。奇妙な空間、奇妙な化け物、何一つわけがわからない。 目の前にいた化け物は、人間のような形をしているが肌があまりにも白く眼球が真っ赤だ。それに指が細長く、指先が尖っている。一番はっきりと化け物だと分かるのは、背中に生えたギザギザの黒い羽の部分だ。 化け物のことはさておき、私には記憶がなかった。 ここは何処?私は彩乃。 ないのは最近の記憶だけ、確か朝お母さんと喧嘩して、それで、どうなったんだっけ? 「戸惑うのも無理はないか。教えてやろう。お前の母親は死んだ。殺された」 「え、噓」 あ、そうだ。思い出した。遺体を見て、それで倒れて…でも、まだ実感が湧かない。 どういうこと? 「因みにだがお前は死んでいない。そしてお前の母親は死んだ。もう二度と会えはしない」 うそ、うそうそうそうそ噓噓噓。今日の朝お母さんと喧嘩して、これで終わり…? 「お母さんが死んだ?もう、会えないの?」 私は化け物にかまいもせず泣き崩れた。泣いて、泣いて… 疲れた…この空間に時間という概念があるのかわからないが私は長い時間そうしていたように思う。 「ああ、これが現実だ。だがな、お前の母親を殺した犯人がいる。憎くはないか?お前とお前の母親との時間を奪ったものが」 私はお母さんにひどいことを言ったはずだ。許されない、許されていいはずがない。 それに、私はお母さんに何もしてあげることが出来なかった。 でも、お母さんを殺した犯人? それ以上に許せない。 憎いに決まってる。 お母さんはいつも頑張って、悪いことなんて何もしていないのに。
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