18 王都封鎖

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18 王都封鎖

 翌日、朝、日が昇るのと同時に親御様が宮に入られたと正式に発表され、夕暮れから王都封鎖と触れが出された。  トーヤは王都に行くと宮から受け取った金の一部でカースに必要と思われる食料品や品物を買い入れ、村長の家に届けた。 「これでなんとか乗り切ってくれよな」 「すまんな、恩に着る。何しろカースは王都に入れないとなったら色々困ることも多い、こんだけありゃみんな安心できる、本当に助かった、ありがとうなトーヤ」 「まあ、いざとなったらどこぞに足を伸ばしてゆっくり買い物してくるって手もあるんだろ? その邪魔になんなきゃいいんだがな」  トーヤはダルの長兄(ちょうけい)にそう言ってニヤリと笑ってみせた。 「そんじゃ宮に戻るわ、ダルも今日のうちには戻るんじゃねえかな」 「ああ、分かった、またな。ミーヤさんにもよろしくな」  そう言われてカースを後にしたが、もうここにも来ることもなくなるだろう、そう思いながら振り切るように馬の足を急がせた。  宮に戻ったのはもう夕暮れ近く。カースから王都には入っていたので封鎖には十分間に合ったものの、どこにも寄らずにまっすぐに宮へ戻ってきてももうその時刻になっていた。  王都は封鎖された。次代様の御誕生まで街から出入りすることはできなくなった。  宮に戻ると相変わらず宮の中はバタバタと忙しそうであった。  それは当然であろう、いつもなら数ヶ月かけてやることを一月(ひとつき)でやらねばならないようなものだ。もしかするともっと短いかも知れない、早めに準備を済ませておくに限る。  トーヤは自分の部屋に戻った。  これまでは外から部屋に戻る時はいつもミーヤが、少し前まではフェイも一緒であった。どこに行くにも2人と、宮の外へ行く時にはルギもついてきてちょっとしたお忍び旅行の貴族のようであった。  今は1人。  トーヤはベッドに音を立てて座るとほおっとため息をついた。  まだ完全に中身の分かってはいない仕事に集中して雑念(ざつねん)は振り払おう、そう思った。 「王都の中でも走り回って色々調べてみるかな……」  ぽつりとつぶやいた。 『気をつけてくださいね』  いつもなら誰かがそう言ってくれていた。だが今は答えるものはない。 「そうか、いねえんだな……」  またぽつりとつぶやく。  ぼんやりとベッドに座っていると誰かが扉をノックした。 「リルです、入ります」  トーヤの夕食を持ってきたのだ。 「今日はミーヤが忙しくて来られませんので代わりにお持ちしました」 「そうか、ありがとう」  食事を置くとリルはそそくさと戻っていった。 「忙しくて来られない、か……」  置いていかれた食事すら味気(あじけ)ない気がしたが、一日走り回って空腹だったためにもくもくと1人で食べた。  空の食器をテーブルに置いたままごろりとベッドに寝転がる。  これから何をするべきかを考えようとするがどうも頭がうまく働かない。  ため息をついて寝返りをうち、扉に背を向ける形で横向きに姿勢を変えると眠気が襲ってきた。    うとうとと眠るでもなく起きるでもない世界を(ただよ)っているとまたドアをノックする音がした。 「どうぞ……」  夢心地(ゆめごこち)で振り返ることもなく返事をすると誰かが入ってきた。  誰だろうと思うが振り返る気にならない。うとうと夢の中で誰かが近付くのが分かる。 「トーヤ」  聞いたことのある声だ。男の声だ。 「なあ、トーヤってばよ」 「ダルか!」  驚いて飛び起きた。 「おま……、カースに帰ったんじゃねえのかよ! 何してんだこんなところで! 封鎖されたら一月は戻れねえんだぞ?」 「帰らなかったんだよ。村には帰らないって言伝(ことづて)を頼んだ」 「なんでだよ」 「座ってもいいか?」  そう言って返事を待たずにトーヤの横に腰をかけた。 「なんか、手伝えることねえかな?」 「は?」 「トーヤの、仕事だよ」 「はあ?」 「引き受けただろ、仕事」 「おまえ、何言ってんだよ?」 「だから、1人じゃ大変だろ? だから手伝うって言ってるんだよ」 「おまえ……」  トーヤは混乱していた。  あんなところを見せてしまった。だからもうダルは自分に愛想(あいそ)を尽かせてしまっただろう、まだ(だま)されていたと知って離れていっただろうと思っていたからだ。 「おまえ……」 「なんだよ?」 「聞いただろうよ? 俺がどんなやつか、分かっただろ? 海賊だったんだぜ? 嘘ついてたんだぜ? そんで金でなんでもやるやつだ、分かっただろうが」 「うん、分かった。でもな、俺、いくら考えてもトーヤのこと嫌いになれないんだよ。悪いやつだって、ミーヤさん式に言えば悪者だって思えないんだよ」  トーヤはだまってダルの言葉を聞いていた。 「それで困ってたらマユリアがどうしたいのかって聞いてくださって、分からないって言ったら時間をくださったんだ。隣に部屋用意してくださって、封鎖に間に合うように考えなさいってな。そんで考えて決めたんだ、俺、トーヤの手伝いするよ。俺にできることなんて大してないけどよ、なんかの足しにはなると思うぜ、なあ、どうだ?」 「おまえ、バカだろう……」 「うん、そうかもな」  ダルはトーヤの言葉に笑ってそう答えた。
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