むかしむかし、あるところに……

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むかしむかし、あるところに……

 『かわいらしい子だね。どうしてこんなところへ来ているの』  と、王さまはおたずねになりました。  エリーザは首をふりました。口をきいてはたいへんです。おにいさまたちがすくわれなくなって、おまけにいのちをうしなわなければなりません。そうして、エリーザは両手を前掛けの下にかくしました。痛めている手を王さまにみられまいとしたのです。 『わたしといっしょにおいで』  と、王さまはいいました。 『おまえはこんなところにいる人ではない。おまえの顔がうつくしいように、おまえの心もやさしいむすめだったら、わたしはおまえにびろうどと絹の着物をきせて、金のかんむりをあたまにのせてあげよう。そうして、おまえは世にもりっぱなわたしのお城に住んで、この国の女王になるのだよ』  こういって、王さまはエリーザを、じぶんの馬のうえにのせました。エリーザは泣いて両手をもみました。けれども王さまはこうおっしゃるだけでした。 『わたしは、ただおまえの幸福をのぞんでいるだけだ。いつかおまえはわたしに礼をいうようになるだろう』    ハンス・クリスティァン・アンデルセン著  ――『野のはくちょう』
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