7個差のタルト・タタン[前編]

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ーー翌朝。  304号室を訪ねる見知らぬ男性が居ました。黒のキャップにグレーの上着を羽織った170cmぐらいの高い男性です。手には羊羹屋の小さな紙袋を下げています。 「すみません、妹がご迷惑を」 「いえ、良いんです」  彼は木瀬川 翠さん。話を聞くと直ちゃんのお兄さんだそうです。玄関先で自己紹介を済ませると、お世話になったからと言って小さな抹茶羊羹を手渡してきました。 (しっかりしてますね) 「ここの羊羹、妹が好きでよく買いに行ってて。冴島サンの口に合うと良いんすけど」 「直ちゃん甘いもの好きなんですね」  堂々とした振る舞いは直ちゃんととても兄妹には見えません。お礼を伝えると、翠さんはこんなことを聞いて来ました。 「正直、俺の妹どうでした?」 「ビックリすることもありましたけど、でも、可愛い子ですね」  直ちゃんは常識から考えると、少し逸脱した行動をとってしまうのかもしれません。しかし、突然変わった家庭環境からのストレスや孤独から寂しいという気持ちをうまく出せない可能性もあります。 (でも、そんなところを含めて可愛いと思うんです)
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