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「ねぇ、あのアイス食べてるの、里依じゃない? それにあの隣の男」
しばらくショッピングモールをぶらついていると、フードコートでふわふわな髪の毛の女性が座ってアイスを頬張っているのが遠目で見えた。少し背の高い男が近づいてきて、ふわふわの髪の毛の女性におしぼりを渡す。その顔には見覚えがあった。
「翠だ」
「ほら、見つけられたじゃない」
見つけたからといって何をすればいいのか僕には皆目検討が付かないのだが。僕達は柱の影に隠れて、遠くから様子を伺う。さすがに声は聞こえないので何を話しているかまではわからない。
「直のお兄さんって割に背が高いのね。あたしよりも高い。目つきは悪いけど、体つきもしっかりしてるし、健康そうだわ」
「神倉の人物チェックってなんなの」
顔と雰囲気で関係性を察している、といわれたが、里依さんは人懐っこいので、おそらく誰に対しても打ち解けた対応ができるだろう。
(そう。誰に対しても同じだ)
今だって、翠に向かって里依さんは僕達に向けるのと同じような顔をしている。アイスはトリプルにコーンとかなりの量があったはずなのに、もうかなり減っていた。
「楽しそうじゃない」
「……うん」
木瀬川 翠は確かに僕のことを嫌っている。だが、他の人に対しては常識のある男だとは思っている。だから、里依さんに何かをするとは思えない。だから、この覗き見はそもそも不要でーー
翠が自分の黒い帽子を里依さんに被せて、里依さんの顔に近づく。こちらからは見えない向きで、2人の姿が重なった。
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