7個差のタルト・タタン[後編]

12/43
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
ーSide 冴島 里依 『す、翠さん、あの、いつまでこれ続けてたらいいんですか』  ショッピングモールに来た私は、直ちゃんのお兄さんと密着した体勢になっていました。どうしてこうなったのかは、私にもわかりません。 「いや、クソ野郎の気配を感じたから。ーー悪いな、彼氏でもないのに近づいて」  クソ野郎? と聞き返すと、死ぬほど嫌いな奴が居んの、と翠さんは言います。この兄妹、口が悪いのはきっと遺伝なようです。借してくれた帽子を返そうとすると、しばらく持っていてほしいと、ぐっと頭に深く被せられました。 「昔から野生の勘だけはあってさ、危ない気配とかわかんだよなー」  翠さんはどこかに向かって親指を下に向けているようでした。私はお行儀が悪いですよといってそれを矯正します。  お昼すぎから翠さんに連れ出された私は、諸々の用事を済ませて一休みしていたところでした。翠さんは、口は悪いですし、行動も粗暴ですが、悪い人ではないように見えます。 (今日は305号室に行く日でしたが、メモも残して来ましたし大丈夫でしょう) 『そういえば先週のナオちゃんの家出の原因って聞いても良いですか?』  言っとくけどマジでくだらねぇから、と言いながら翠さんは私に教えてくれました。 「ナオの誕生日に限定グッズが欲しいって強請られて断った」  どうやら、今直ちゃんがはまっているアニメのアーケードコラボグッズがどうしてもほしいと言われたそうです。 「金が足りなかったから必死にバイト増やしてたら、肝心の妹は家に人が居ないからって家出してんの意味わかんなくね?」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!