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『そんな理由で』
寂しかったんだろうな。と溢します。そしてそこまでわかっているのに、また今日も兄妹喧嘩をしているらしいのでした。
「俺はまだ大人じゃねーから、寂しかったが理由で心配かけさせられて”はい、そうでしたか”って飲み込めねぇの。俺だってできることは努力してるし、1人じゃ限界がある」
『翠さん......』
兄妹2人の家で出来ることは限られています。
「思春期って奴だろ。親とかきょうだいに距離をとりたがるやつ。だから、あんましコミュニケーションもうまくいかねーし、肝心なことは言わねーし」
翠さんは翠さんで苦労をしていたようです。
「ひとりでモヤモヤしてたら、なんか、全然知らない人に助けられて、その、感謝、してる、っていうか」
『あぁ! 緒方さんに助けてもらったんですね!』
「いや、アイツじゃなくてアンタだよ」
翠さんは私の頭にデコピンをします。
「男の俺じゃ下着とか流石に買えねーし。困ってるのも知らなかったんだよ」
それに、と翠さんは続けます。
「ナオはあんな性格だから、人に迷惑かけることが多くてさ。俺いつも謝りにいってたんだ。だから、また怒られると思った。それなのに冴島サンが受け入れてくれたから嬉しかったんだ」
『お役に立てたみたいで、なによりです』
翠さんはやはり当初の印象通りしっかりしたお兄さんでした。でも、なんだか誰かとよく似ている雰囲気を持っているのです。私の警戒ランプがちかちかと先ほどから点灯しはじめています。
「おぅ。じゃ、そういうことで今日も俺の役に立ってな」
『え?』
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