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『ナオフミさん、なんでコレを今日、私に?』
「それはまた後でだな。」
『えっ、そんな~。気になる・・・』
「そのうちわかるっていうか・・・・俺もこの先どうなるかわからんし。それより、こっちが先。」
なぜか曖昧な返事しかしてくれなかったナオフミさんは、腰掛けたままでいたベッドから降り立ち、椅子の上にかけてあった光沢のある紺とグレーのストライプ柄のネクタイを手にとって私に差し出した。
「締めてくれる?」
『あっ、ハイ。』
私は幽霊ではなかったらしいナオフミさんからネクタイを受け取って、両手で持ち直した。
もう一度ベッドサイドに腰掛けたナオフミさんは
いつもの朝のように私がネクタイを締めやすいように、体を少し前に屈め、Yシャツの襟を立ててくれた。
それに導かれるように彼の襟元にネクタイをかけてあげるのもいつもと同じ。
ネクタイを結んでいる最中に、“いろいろ頑張りすぎるなよ。”って囁いてくれるのも。
ネクタイを結び終わった時に、“もう少し締めて”とお願いされるのも。
でも、今日という日は
ちょっとだけ違った。
『・・・・んンっ!!!!!』
いつもの朝は
ネクタイを更に強く締めてあげる隙に彼にキスを狙われるのを
私の意地悪ゴコロからひょいとかわしているのに、
『も~う。ナオフミさん・・・・』
「マリアベールを被ったままのキスって、神聖な気持ちになるよな?」
彼の安否を心の底から心配した今日という日は
キスをかわす余裕なんて全くなくて
そのまま真っ直ぐに受け止めた。
『・・・・も~う・・・』
やっぱり照れくさいから、後から口を尖らせて抗議したけれど。
その抗議に、してやったりという笑みを浮かべたナオフミさん。
『でも、そうだね。ドキドキするかも。』
カワイイと思ってしまったから許してあげよう・・・
「伶菜・・・まだ、ちゃんと言ってなかったよな?」
『ん?』
いきなり真剣な顔で私の名を呼んだ彼にもドキドキさせられて。
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