【Reina's eye:クリスマスイヴは突然に・・・】

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警備員さんが口にした20数年前の事故 それは多分、ナオフミさんも心の奥深くにしまってある出来事 そう それは私の実の父親で、ナオフミさんの一時的な育ての親で、この病院で産婦人科医師だった高梨拓志が病院屋上で倒れてそのまま息を引き取ってしまったという出来事だろう その頃、1才ぐらいだった私はさすがにその記憶はないのだけれど 家庭の事情でうちの両親に引き取られて私と一緒に育てられていたナオフミさんは小学生だった その現場に居合わせてしまったのがナオフミ少年 その話を福本さんからだけでなく “心臓マッサージを受けている親父がびくとも動かない姿が今も頭から離れないんだ”ってナオフミさん自身から聴かせてもらった時は 幼い心に残した傷は大きかったんだなと胸が張り裂けそうだった その現場にこの警備員さんも居合わせたんだ 「あの時、君がぐっと堪えた涙が、今の君に繋がっているんだよな。」 警備員さんは持っていた制帽を再び被ってから私達に背を向けた。 そして、剥がれかけていた院内防災訓練の案内ポスターに刺さっていた画鋲を外し、それを丁寧に張り直した。 「あのランドセルを背負っていた少年が、この病院を力強く引っぱる医者になるとはな。いくらでも代わりのいる警備員の俺が偉そうな口の利き方しちゃあ、失礼だよな。」 ポスターがきちんと張れているかを確認しているのかのようにポンポンと中指で壁をノックした警備員さん。
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