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予想通り、彼とのデートは本当に退屈なことこの上なかった。
繁華街へ繰り出し、特に何か買い物をするわけでもなく時々通りがかりのアパレルショップに入ったり、本屋、DVDレンタル店で各々見たいところを回ったりした。
一つの店の中でこれ以上暇を潰せないくらい長居する時は、普段ならスマホをいじって暇になるのを回避するのに、今日はそれができない。
弘志の方も、自分から「出かけよう」と誘って来た割には、私と二人の時間を楽しむというより、自分が好き勝手にウィンドウショッピングを楽しんでいるというように見えた。
「はあ……」
一体私は、何をしているのだろう。
漫画コーナーで立ち読みしている弘志をよそに、私は本屋の入り口で道ゆく人をなんとなく眺める。
ここらで一番の繁華街というだけあって、外を歩く人はやはりカップルや女の子同士のグループが多い。そのどの人たちも、一緒に来た人との会話を楽しんでいるように思えてならない。
きっとそれは私の勘違いで、中には私たちみたいに会話が弾まないカップルや、友人グループの中で一人だけ輪に入れないという人もいるはずだ。
しかし、少なくとも隣の芝は青く見えてしまう今日この時は、店の前でポツンと彼のことを待っている自分が、ひどく惨めに思えた。
「もう帰りたい」
思わず漏れてしまった本音を聞いたのかそうでないのか分からないが、トントンと肩を叩かれた私が振り返ると、弘志が「お待たせ」と声をかけて来た。
「遅かったね」
「ああ。ちょっと、漫画の続きが気になってさ。ごめんね」
「別にいいけど」
彼の、「ごめん」に私はすぐに騙される。
たとえ彼が原因で喧嘩をした時でも、「由梨、ごめん」とすぐに謝られると拍子抜けするというか、ずっと怒っている自分が情けなくなってついつい許してしまう。
そして私は、どういうわけか、自分の非をきちんと認めて謝る彼を、好きだと思っている。
これだけ自分の自由を奪われたとて、彼は“束縛”以外に、本当に何も非の打ち所がない男なのだ。
「ちょっと、休憩しない? あっちで」
彼が、笑って指差した方にあったのは、公園。
それほど大きな公園ではないが、おそらく繁華街で歩き疲れた人たちがひと休みするのにはうってつけの場所だった。
「うん。いいよ」
ちょうど足の疲れを感じていた私は、彼の誘いに快く了承する。
「俺、飲み物買ってくからさ、由梨は先に座っててくれる?」
「え、うん。分かった」
こういう時だけ気が利く弘志が、私を置いて、近くの自販機まで走る。
私は彼の言う通りに、先に公園の椅子に腰を下ろした。
子供が遊ぶような遊具はないけれど、ちょうど良い感じに木陰があって涼しい。
「疲れたー」
椅子に座ると、自分が思っていた以上に疲労というものは溜まっていて、どっと身体が重くなるのを感じた。
そのまま首を上に上げ、木々の隙間に映る空を見上げる。
6月の梅雨時、久しぶりに雨が降っていない。
快晴、とまではいかないが、晴れの空はいつ見ても心地良い。綺麗な空を見ていると、どんな荒れた気持ちも穏やかにしてくれる。
「はい、これ」
「ひゃっ」
首筋にひんりと冷たい感覚を覚え、背後から現れた弘志の顔を仰ぐ。
「ははっ、びっくりした?」
「もう……脅かさないでよ」
「ごめんごめん」
渡されたアイスティーを頂戴しながら呆れる。
しかし私は、時々見せる、彼のこういったお茶目な一面が好きだったのだ。
ブラックコーヒーを手にした彼が私の隣にストンと腰を下ろす。
「はあ〜疲れたね。由梨、足大丈夫?」
「え? う、うん。大丈夫」
「そうか」
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