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いつになく私を気遣う弘志のことを不思議に思いながら、アイスティーの蓋を開けてゴクゴク喉を鳴らしながら飲んだ。喉が渇いている感覚はなかったが、一度口に入れると、脳が「もっと、もっと」とせがんでいるのか、500mlのペットボトルの中の液体が、みるみるうちに減っていった。
「ぷはっ」
私がペットボトルから口を離すと、彼がぷっと吹き出した。
「ビールでも飲んだみたいな勢いだな」
「な、喉が、渇いてたのよっ」
彼にツッコまれるのが恥ずかしくて、私は顔をそっと伏せた。
「買って来て良かった。由梨がこんなにアホみたいに飲んでくれるなら」
「アホで悪かったわね」
彼が年上の余裕で私をからかって、それにつられた私はまんまと拗ねる。
そういえば、彼と交際を始めて数ヶ月の頃は、こうしたテンポの良い楽しい会話が多かったなと、ふと思う。
それがいつの間にか、私を自分の元に縛り付けておきたいという彼の自分勝手な欲求が見え隠れして、私はそれに嫌々ながらも従っていた。
「俺さ」
彼が、唐突に真面目な声色で口を開いた。
「な、何?」
彼と私の間に流れる空気がガラリと変わって多少戸惑いながら聞く。
「由梨のことが本当に好きなんだ」
「どうしたの急に?」
「いや、なんとなく、今言っておきたくて。由梨は俺のこと、正直うざいと思ってるかもしれないけどさ」
「そんなこと、ないよ」
意外だった。
彼が自分を客観視することができているだなんて、思いもしなかったから。
「でもやっぱりさ、ほら……いつも由梨には、俺の言うこと聞いてもらってるから」
「本当にどうしたのよ、急にそんなこと言い出すなんて」
「理由とかないんだ。本当に今、伝えておきたくて」
「……そう」
その時ブルブルッと、携帯の着信音がして、彼が徐にズボンのポケットから自分のスマホを取り出した。
「出ないの?」
人の画面を見るほど悪趣味でないため、スマホの画面を見つめるだけで応答しようとしない彼に、私は訊いた。
「……ああ。いいんだ、これは」
「そう」
「とにかく、俺は由梨のことを誰よりも好きだからさ。それだけ。覚えておいてくれたらいい」
「うん、分かったわ」
なぜ彼が唐突にそんなことを言い出したのか、私には分からなかったけれど、彼には彼なりに思うことがあったのだろう。
今はただその好意を、素直に受け取っておくことにする。
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