第1話 束縛男と私のユリ

13/15
前へ
/83ページ
次へ
15:21 『も、もしもし、お姉ちゃん……? お母さんが……! お母さんがトラックにはねられて、大変なことになったのっ。今すぐ××病院に来て……!!』 「な、なによそれ……?」 スマホの向こうから聞こえてくる妹の声が、不安に震えていて、今にも泣き出しそうだ。 「どういうことよ……っ」 ドクドクと、心臓が脈打つ音が、自分でもはっきりと聞こえて来た。 部屋の外からは、弘志がシャワーを浴びる音が、無責任なほど大きく響いている。 私は怖かった。 もう一つの17:56の留守電を開くのがとても怖い。 でも、聞かなくちゃいけない。 妹が31回も私に電話をして、最後に伝えたかったことを、しっかりと耳に焼き付けなくては。 震える指を必死にコントロールしながら、私は意を決して留守電再生のボタンに触れた。 17:56 『お姉ちゃん、ねえ、どうして来なかったの……? 電話に出てくれなかったの……? お母さんが、死んじゃったよっ』 ガンと、頭をハンマーか何かで殴られたような衝撃が、走った。 「うそでしょ……?」 死んじゃったんだよ。 スマホを耳から話して、再び脳内で再生された妹の嗚咽まじりの言葉に、私は吐きそうになって胸を押さえた。 呆然自失のまま、LINEを開く。 これもまた妹からのメッセージだった。 電話と同じような内容の言葉たちが、次々と目に飛び込んできて、半ばパニック状態に陥る。 最後の言葉は、17:35に送られて来た「もう間に合わないっ」というもの……。 「うぅっ」 何がなんだか分からなくて、その場に崩れ落ちる。ガクンと床で膝を打った時、もうこのまま立てないような気がした。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加