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「こんにちは」
7月中旬。
梅雨が開けて、数日前の雨が嘘のように晴れていて、蒸し暑い。
土曜日の朝、私は街へ出かける前に、「フラワーショップ高山」に寄り道をした。
母が亡くなってまだ日も浅いけれど、通夜や葬式でバタバタと忙しい日々を送る中で、まともに悲しむ余裕なんて、なくなっていた。
ついこの間までは一日三食のご飯も喉を通らなくて、妹の桃子に「お姉ちゃん大丈夫?」と何度も電話をもらっていたのに。
気がつけば普段通りの生活を取り戻して、私は外へ出ている。
今日は、大学時代の友人、前田茜と一日中遊ぶ約束をしているのだ。
「いらっしゃいませ。あら、この間のお客さま」
ササユリを買ったときと同じ店員さんが、私の顔を見てにっこりと微笑んでくれる。
「今日は、友達に花をあげようと思って来たんです」
そう。
今日は茜の誕生日。彼女に久しぶりに会うということもあって、プレゼントに花を渡そうと思ったのだ。
「それは、素敵ですね。どの花になさいますか?」
ニコニコと可愛らしく微笑んだまま、店員さんが尋ねた。
私は今日、どの花を買うのか決めてある。
「ユリの花をください。ササユリでなく、普通の。いろんな色のユリを花束にして」
【第一話 終】
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