第2話 ギャンブル道化師

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*** 「映画、面白かったね」 和樹(かずき)がラザニアをふうふうと息で冷ましながら、今日の映画の感想を話す。 「うん、すごく」 交際1ヶ月目の島村和樹とは、職場近くのカフェで出会った。男女の出会い方としては、珍しい部類かもしれない。 幼い頃の夢だった花屋で働いている私は、火曜日から土曜日まで仕事をして、日曜日と月曜日に休んでいる。自分が休んでいる間は、パートさんに仕事を任せて。 お昼になると、決まって店の近くのカフェに行っていた。カフェと行っても、こぢんまりとした喫茶店に近い。しかし、そのなんとも言えない大きさや、落ち着いた雰囲気が好きで、毎日お昼時になるとそこに行くのが私の日課だった。 カフェで私は、いつも同じ種類のトーストサンドを頼む。 タマゴサンドとタンドリーチキンサンドのセット。 トーストが丁度良いくらいにこんがりとした焼き目をつけて席まで運ばれてくる頃には、恐ろしいくらいにお腹が減っている。 普段なら、トーストサンドが運ばれたらすぐに「いただきますっ」と手を合わせるのだが、その日は違った。 「あの、そのトーストサンドいつも食べてますよね。そんなに美味しいんですか?」 突然背後から飛んできた声に、私はぎょっとして振り返る。 「ど、どちら様……?」 そこにいたのは、どこにでもいるようなサラリーマンふうの男性。 誠実で優しそうな目をしている人だった。 これまで生きてきて、通りすがりの人に道を聞かれることはあっても、知らない人に普通に話しかけられたことはなかったため、反応に戸惑う私。 「あ、すみませんっ。僕、決して怪しい者じゃないんです。この近くの会社に勤めてて、よく来るんです。ここ」 怪しい人が、“怪しい者です”なんて言うわけがないし、その男性の言うことにどれくらい信憑性があるのかなんて、全く分からない。 でも、とても悪い人には見えないその人の言うことに、すんなりと納得している自分がいた。 「そうなんですね。私もほとんど毎日ここに来ていて」 「知ってます!」 男性の威勢の良い声に、「えっ」とびっくりしてその人の目を見つめてしまう。 「あ、いや、これはそのっ、僕があなたと同じで毎日ここに来てるから知ってるだけで……決してあなたのことを追い回してたとか、そういうのじゃないんですっ。すみません……」 側から見ればストーカーに思われなくもない男性。 私はその人の表情や声色があまりに素直すぎて、途中でふっと笑ってしまった。 「謝らないでください。あなたのこと、私もたまに見かけていた気がします」 本当はその男性のことなど、気に留めたことすらなかった。 多分彼の言う通り、彼は実際にほぼ毎日このカフェに来ているのだろうが、花屋店員らしかぬ、“花より団子”の私には、運ばれてくるキツネ色のトーストサンドにしか興味がいかなかったのだ。
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