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「えーっ、そうなの?」
翌日の金曜の夜、大学時代の友人である前田茜に土曜日の約束を反故にしてほしいと電話をした。
「うん……ほんっっとうにごめん。彼が、許してくれなくて」
「彼って、ああ、例の“束縛彼氏”ね」
“束縛彼氏”だなんて、相変わらず人の彼氏をなんだと思っているのかと問いたくなるような揶揄だが、茜の言う通り、確かに彼にそういう癖があることは否めないため、私はスマホを耳に押し当てながら黙り込む。
「にしてもさぁ、あんたも懲りないわよね」
「懲りないって、ひどいなあ」
「だってそうじゃん。なんだかんだでいっつも彼氏くんからNGが出て会えてないよね。あたしら」
「うぅ……それは確かに……」
そう、実は彼女とは、最近何度も会おうという約束をしているにも関わらず、一向に実現していなかった。おそらくそれは、私が彼と付き合いだした一年前から。
「で、今回はなにがあったの? またどうせくだらないことでしょうけど」
茜に聞かれて、私は昨日あったことを彼女に話した。
仕事の帰り道にある花屋さんで花を買って帰ったら、伝えていた帰宅時刻から5分過ぎていたこと。
そのことに、彼が怒ってしまったこと。
「はあっ? 本当にそんなことで? しょーもないことだっていうのは分かってたけど、まさかそこまでとは思ってなかったわ」
びっくりして腰が抜けてしまいそうだと言わんばかりの彼女の仰天っぷりに、私まで「そんなに驚くことなんだ」と唖然とした。
「あたしはいいんだけどさ。あんたは窮屈じゃないの? そんなに縛られて」
茜の呆れ声に責められているようで、頭痛がしそうだ。
「そりゃあ……嫌だけどさ。でも、それ以外に何も不満はないのよ。頼んでもないのに部屋の掃除とかしてくれるし、ご飯だって作ってくれる。こっちは仕事で疲れて帰ってきて、ご飯作る元気ないから、助かってるのよ。すごく」
「ふーん。分からないなぁ。由梨、あんたひょっとしてドM? 今の生活が心地良いの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……。だけど、ほら、私もう28でしょ。茜みたいに女一人でも強く生きられるような稼ぎもないし……そろそろ落ち着きたいじゃない」
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